http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140408/262573/?P=1
後退する中国、「大惨事」のヨーロッパ
歴史人口学者エマニュエル・トッド氏インタビュー(上)
黒沢 正俊 >>バックナンバー 2014年4月14日(月)
エマニュエル・トッド氏
フランス国立人口統計学研究所(INED)の研究員。歴史人口学者、家族人類学者。1951年生まれ。祖父は作家のポール・ニザン。1976年に出版した処女作『最後の転落』でソ連崩壊を予言して衝撃を与える。2002年の『帝国以後』で米国の衰退を予言、世界25カ国語に翻訳されるベストセラーとなった。他の著書に『世界の多様性』、『新ヨーロッパ大全』、『経済幻想』、『デモクラシー以後』(以上、邦訳は藤原書店)など(写真:大槻純一、以下同) 歴史人口学という学問分野がある。個人の出生・結婚・死亡のデータを調べて社会の変化を分析する。1976年、『最後の転落』(La Chute finale)という著書がフランスで出版された。著者はエマニュエル・トッド氏。25歳の新進気鋭の歴史人口学者だった。
トッド氏はソビエト連邦の乳児死亡率の高さに注目し、「ソビエト連邦は崩壊する」と大胆に予想した。当時は米ソ冷戦の真っ只中にあり、社会主義圏の盟主としてのソ連の政治体制は盤石に見えた。トッド氏の予想通り、1991年、ソ連は崩壊した。
トッド氏は2002年、『帝国以後』(Apres l'empire)を出版した。ソ連に勝利した超大国、米国を分析し、「米国は衰退に向かっている」と予想した。同書は世界的なベストセラーとなっている。イスラム圏での識字率の向上、出生率の低下などから近代化の兆候を読み取り、チュニジア、エジプトなどで起きた「アラブの春」を予言してもいる。
今、クリミアをめぐるロシアとウクライナの対立など、ヨーロッパが世界の焦点となっている。トッド氏が予想した「帝国以後」の状況である。このほど、11回目の来日をしたヨーロッパを代表する知識人トッド氏に世界の現状について話を聞いた。
(聞き手は黒沢正俊=出版局編集委員)
米国発のリーマン・ショックに直撃されたヨーロッパは、ギリシャ債務問題など一連のユーロ危機を何とか収拾しました。しかし、今度はウクライナ問題という厄介な問題が勃発し、「新しい冷戦」の様相を呈しています。ヨーロッパの知識人は今、世界の動向をどう見ているのでしょうか。
エマニュエル・トッド氏(以下、トッド):あなたは世界を理解する一般的な説明を求めているかもしれないが、私はそうしたものを信じない。
まず日本人が最も関心を持っているアジアの大国、中国から始めよう。
歴史人口学的に中国は後退している 私は中国については、非常に悲観的だ。ほとんどの歴史人口学者はそうだと思う。その人口が膨大であるのに対し、出生率が極端に低いという問題を抱えている。中国は全員が豊かになる前に高齢化社会に突入する。
他方、社会保障制度が未整備で、男の子を選択するための偏った人工中絶が行われている結果、男女比率のバランスが取れていない。
経済については、膨大な輸出能力を持っている。しかし、私はこの国が自分で運命を操れる怪物であるとは思わない。共産党のビートルズ(成功した世界的スター)ではなく、西側が経済成長を実現するための輸出基地と言える。利益率を上げるために中国の安い労働力を使うことは西側にとって自然な決定だった。
現状の中国経済は設備投資比率がGDPの40%、50%に達している。それは経済バランスから見て異様であり、スターリン時代の旧ソ連がそうであったように、経済が非効率であることを示している。
社会はどうかというと、これも非常に不安定だ。中国社会で素晴らしかったのは、平等主義だ。特に兄弟間の平等性が重視されてきた。中国で共産主義革命が起きたのも、社会に平等主義の信念があったからだ。
ところが、近年の経済成長にともなって、不平等、貧富の格差がすさまじい勢いで拡がっている。社会には依然として平等主義の考え方が根強いため、潜在的な政治的不安定度が高まっていくだろう。中国共産党が国民に対し、ナショナリズムや反日感情を強調する理由が分かる。
最善のシナリオは、世界が発展して同時に中国も豊かになっていくことだ。他方で、世界危機やヨーロッパの崩壊などの最悪シナリオの可能性についても心に留めておかなければならない。
同じ社会主義国家のロシアが社会主義から脱出できたので、中国もできるのではないかという見方もあるが、いくつもの問題を解決しないと共産主義から出られないし、経済も社会も恐らく安定しない。
GDPでの日本と中国の比較は意味がない。なぜかと言えば、中国ではいろんな階層の人たちが何とか一緒に暮らしているのに対し、日本は人口の半分ほどが大学など高等教育を受けて卒業して働くという社会構造になっている。
中国が経済指標で先進国にキャッチアップするということと、中国が世界をリードして将来をつくっていくということは別問題。中国が米国より効率的な社会となると考えるのはナンセンスであり、単独で支配的国家になると予想するのも馬鹿げている。
中国は共産主義体制から抜け出し、前進していると自分で思っているはずだが、私の観点からは、逆に後退しているように思う。
「ヨーロッパ復権」予想を修正
では、欧米の将来はどうですか。
トッド:米国に対する私の見通しは、中国に比べて肯定的だ。米国は今、岐路に立っていると思う。米国は愚かな自由主義から離れようとしている。ルーズベルトのニューディール政策ほどではないが、市場一辺倒からより政府の役割を重視する方向に向かおうとしているようだ。こうした米国における評価すべき変化を私は注視している。
他方、ヨーロッパは、大惨事だ。ユーロが機能しなくなっている。ヨーロッパは、世界の問題児になっている。2002年に出版した『帝国以後』では、米国は制度的な弱点を抱えており、もはや世界の問題を解決するスーパーパワーではなくなると書いた。他方で、ヨーロッパの将来は非常に有望であると書いた。
私はヨーロッパについてひどい間違いを犯した。ヨーロッパがEU統合を機に世界平和の推進力になると予想したが、それは外れた。今や、ヨーロッパは諸国家の平等な連合体などではなく、ドイツを中心とした階層的なシステムに変容しつつある。
ヨーロッパは、内部対立を抱えている。その証拠に、多くの国が再びドイツへの嫌悪感を持ち始めている。
今勃発しているウクライナ問題は、ヨーロッパにとってだけでなく、世界にとって深刻な問題です。
トッド:ウクライナで今起きている事態は極めて象徴的だ。ウクライナでの出来事は誤解されている。これはロシアと西欧諸国の問題であると考えられているが、果たしてそうだろうか。みんな、こう考えている。「ロシアがクリミアを侵略した。当然、米国は行動を起こすはずだ。米国は面目を失うわけにはいかないから、ウクライナ政府の後ろ盾になる」。
果たして、こうした見方は正しいのだろうか。旧ソ連圏解体後の米国は、異なる資本主義にも非寛容だった。しかし、今は寛容になっている。ロシアは異なったタイプの資本主義で、昔なら米国は介入しただろうが、今はそうならないはずだ。ウクライナ問題におけるオバマのアジェンダには、介入政策はない。
最近、反ロシアの動きがヨーロッパ内に生まれている。ドイツはロシアとの関係でいつも友好と対立の狭間で躊躇してきた。そして、両国の関係はつねに友好に始まり、対立で終わってきた。
今、ドイツとロシアには重大な対立があると考える。これがウクライナ問題に関する現在の地政学についての私の見解だ。
民主主義と独裁の二面性を持つロシア
ロシアのクリミアへの関与は、新しい冷戦とも見られています。
トッド:英国の歴史学者で経済学者のロバート・スキデルスキーが、ロシアの二面性を表現する素晴らしい記事を2013年9月20日付けガーディアン紙に書いている。
その記事によれば、二面性とは民主主義であり独裁政治でもある現在のロシアの国内システムのことだ。スキデルスキーは、ロシアのシステムを表す新語が必要だと言っている。国際問題での姿勢を考えると、ロシアは自国を守ろうとする保守的な国家であり、そのこと自体は悪くはないと彼は見ている。
ヨーロッパは変貌しつつある。『帝国以後』の中に米帝国からの「ヨーロッパの独立」と題した章がある。これは全く真実だったが、米国から離れ、独立したヨーロッパとドイツの関係について、私は予見できなかった。ヨーロッパはドイツを中心とした階層構造になっているという新しい事態を予見できなかった。
今、ドイツ経済はユーロ圏で唯一好調です。その理由は、メルケル首相の前任者であるゲアハルト・シュレーダー氏の社会保障、雇用改革にあるといわれています。
トッド:フランス経済はひどい状態だ。もう大惨事となるところだ。フランス経済は、ユーロによって破壊された。ユーロを生み出すことに忠実であったフランスなのに。結果は完全に失敗だ。しかし、そこから抜け出せない。とても困難な状況にある。
私がフランスや他の国で講演をするとき、オランド大統領について話すことを拒否している。オランドはいつもドイツの後をついて行くから、私は彼に言及するたびに「オランド副首相」と呼んでいる。
(つづく)
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エマヌエル・トッドの誤解と問題点
● トッドの問題点は、社会の現象面である、人口や出生率や識字率等と言う、時代と
共に基本的に前進したり後退したりするもので、判断しようとする
ところにあります。
● 自己の理論が正しいと言いながら、一方では“世界を理解する一般的説明”を否定
しています。つまり、自らの分析の土台は、一般的ではないと言って
いるようなものです。つまり、特殊で限定的な状況に対処できると
云っているようなものです。
● それはそうでしょう。人口や出生率や識字率と言うのは、豊かさや、歴史的な
人類の急激な増加や女性等をどう扱うかという、歴史の流れや、
ある時代の文化にも依存するからです。
● 言い換えれば、時代とその栄枯盛衰を現す病態にしか過ぎないからです。病態は
その姿を理解するうえで手助けには成りますが、革命が起こったり,時代が
変わったりする事を説明できる、説明=原因とは異なります。
● 病気で云えば、脳炎は脳で炎症が起こっている事を説明しますが、炎症は病態であり、
原因では有りません。ヘルペス脳炎、日本脳炎と診断されて、初めて原因である
ウイルスが出てくるのです。ウイルスが原因であり、病態は脳炎と言う事です、
● 歴史を見れば、又現実の世界を見れば、資本主義国のみが国家形態ではない事は
すぐに分かります。ソ連は共産主義であったし、今のロシアも資本主義では
ありません。変則的な資本主義などと言う分析自体が間違っているのです。
● むしろ、ニューズウィーク誌に出ている、プーチン王朝と言う表現が有っています。
誰もサウジアラビアやイランを資本主義とは思わないでしょう。資本主義には
支配者である、王様やその取り巻きはいないのです。
● 勝利者が全てをとると言う表現は何時の時代でも当てはまり、社会の階層を説明できます。
観念である平等とかの表現を分析に使用するのがおかしいのです。歴史上、家族内でも
社会内でも国家間でも平等が貫徹されたことは一度たりとも有りません。
● 動物を見れば分かりますし、現実を見ても分かります。むしろ自由と民主主義が
平等を齎しそうですが、これも幻想であったことは、事実を見れば分かります。
● 軍国主義時代≒戦国時代は、武力が上下関係を決めたし、君主の時代は知恵あるものが
官僚の試験に受かって、支配者の一員となります。資本主義国では最も裕福な
国際金融機関が圧倒的な力を持っています。何処の時代に平等が有るのです。
● 従って競争すれば、強いドイツが全てをとるのは始めから見えます。しかし100年前は
ドイツは新興国であり、力は英仏が圧倒的でした。これも時代の栄枯盛衰であり、
世界を支配した大英帝国は崩壊寸前です。年老いた国家となっています。
● 大国の興亡は”歴史の真実です。仏が崩壊しても何の不思議でもありません。
システムの寿命と言う観点から物事を見れば、一目瞭然です。
● 太陽系でも銀河系でも、原子でさえも寿命は決まっているのです。これを法則と
言うのです。従って人類を説明できる、歴史を説明できる一般的説明≒法則
を信じないと言うのは、単に私は原子の寿命や、銀河系の事は知らないと
いう事と同じなのです。知る事を追求するのが学問です。
● 私のフラクタル歴史経済学、数理波動経済歴史学、時代の寿命説を基にすれば
? ドイツの独り勝ちも、
? フランスの崩壊も、
? ユーロの崩壊も、
? ソ連や英米仏型資本主義の崩壊も、中国の問題点も全て見えるし、説明できます。
● 是非ご参考にすることを、期待します。
後退する中国、「大惨事」のヨーロッパ
歴史人口学者エマニュエル・トッド氏インタビュー(上)
黒沢 正俊 >>バックナンバー 2014年4月14日(月)
エマニュエル・トッド氏
フランス国立人口統計学研究所(INED)の研究員。歴史人口学者、家族人類学者。1951年生まれ。祖父は作家のポール・ニザン。1976年に出版した処女作『最後の転落』でソ連崩壊を予言して衝撃を与える。2002年の『帝国以後』で米国の衰退を予言、世界25カ国語に翻訳されるベストセラーとなった。他の著書に『世界の多様性』、『新ヨーロッパ大全』、『経済幻想』、『デモクラシー以後』(以上、邦訳は藤原書店)など(写真:大槻純一、以下同) 歴史人口学という学問分野がある。個人の出生・結婚・死亡のデータを調べて社会の変化を分析する。1976年、『最後の転落』(La Chute finale)という著書がフランスで出版された。著者はエマニュエル・トッド氏。25歳の新進気鋭の歴史人口学者だった。
トッド氏はソビエト連邦の乳児死亡率の高さに注目し、「ソビエト連邦は崩壊する」と大胆に予想した。当時は米ソ冷戦の真っ只中にあり、社会主義圏の盟主としてのソ連の政治体制は盤石に見えた。トッド氏の予想通り、1991年、ソ連は崩壊した。
トッド氏は2002年、『帝国以後』(Apres l'empire)を出版した。ソ連に勝利した超大国、米国を分析し、「米国は衰退に向かっている」と予想した。同書は世界的なベストセラーとなっている。イスラム圏での識字率の向上、出生率の低下などから近代化の兆候を読み取り、チュニジア、エジプトなどで起きた「アラブの春」を予言してもいる。
今、クリミアをめぐるロシアとウクライナの対立など、ヨーロッパが世界の焦点となっている。トッド氏が予想した「帝国以後」の状況である。このほど、11回目の来日をしたヨーロッパを代表する知識人トッド氏に世界の現状について話を聞いた。
(聞き手は黒沢正俊=出版局編集委員)
米国発のリーマン・ショックに直撃されたヨーロッパは、ギリシャ債務問題など一連のユーロ危機を何とか収拾しました。しかし、今度はウクライナ問題という厄介な問題が勃発し、「新しい冷戦」の様相を呈しています。ヨーロッパの知識人は今、世界の動向をどう見ているのでしょうか。
エマニュエル・トッド氏(以下、トッド):あなたは世界を理解する一般的な説明を求めているかもしれないが、私はそうしたものを信じない。
まず日本人が最も関心を持っているアジアの大国、中国から始めよう。
歴史人口学的に中国は後退している 私は中国については、非常に悲観的だ。ほとんどの歴史人口学者はそうだと思う。その人口が膨大であるのに対し、出生率が極端に低いという問題を抱えている。中国は全員が豊かになる前に高齢化社会に突入する。
他方、社会保障制度が未整備で、男の子を選択するための偏った人工中絶が行われている結果、男女比率のバランスが取れていない。
経済については、膨大な輸出能力を持っている。しかし、私はこの国が自分で運命を操れる怪物であるとは思わない。共産党のビートルズ(成功した世界的スター)ではなく、西側が経済成長を実現するための輸出基地と言える。利益率を上げるために中国の安い労働力を使うことは西側にとって自然な決定だった。
現状の中国経済は設備投資比率がGDPの40%、50%に達している。それは経済バランスから見て異様であり、スターリン時代の旧ソ連がそうであったように、経済が非効率であることを示している。
社会はどうかというと、これも非常に不安定だ。中国社会で素晴らしかったのは、平等主義だ。特に兄弟間の平等性が重視されてきた。中国で共産主義革命が起きたのも、社会に平等主義の信念があったからだ。
ところが、近年の経済成長にともなって、不平等、貧富の格差がすさまじい勢いで拡がっている。社会には依然として平等主義の考え方が根強いため、潜在的な政治的不安定度が高まっていくだろう。中国共産党が国民に対し、ナショナリズムや反日感情を強調する理由が分かる。
最善のシナリオは、世界が発展して同時に中国も豊かになっていくことだ。他方で、世界危機やヨーロッパの崩壊などの最悪シナリオの可能性についても心に留めておかなければならない。
同じ社会主義国家のロシアが社会主義から脱出できたので、中国もできるのではないかという見方もあるが、いくつもの問題を解決しないと共産主義から出られないし、経済も社会も恐らく安定しない。
GDPでの日本と中国の比較は意味がない。なぜかと言えば、中国ではいろんな階層の人たちが何とか一緒に暮らしているのに対し、日本は人口の半分ほどが大学など高等教育を受けて卒業して働くという社会構造になっている。
中国が経済指標で先進国にキャッチアップするということと、中国が世界をリードして将来をつくっていくということは別問題。中国が米国より効率的な社会となると考えるのはナンセンスであり、単独で支配的国家になると予想するのも馬鹿げている。
中国は共産主義体制から抜け出し、前進していると自分で思っているはずだが、私の観点からは、逆に後退しているように思う。
「ヨーロッパ復権」予想を修正
では、欧米の将来はどうですか。
トッド:米国に対する私の見通しは、中国に比べて肯定的だ。米国は今、岐路に立っていると思う。米国は愚かな自由主義から離れようとしている。ルーズベルトのニューディール政策ほどではないが、市場一辺倒からより政府の役割を重視する方向に向かおうとしているようだ。こうした米国における評価すべき変化を私は注視している。
他方、ヨーロッパは、大惨事だ。ユーロが機能しなくなっている。ヨーロッパは、世界の問題児になっている。2002年に出版した『帝国以後』では、米国は制度的な弱点を抱えており、もはや世界の問題を解決するスーパーパワーではなくなると書いた。他方で、ヨーロッパの将来は非常に有望であると書いた。
私はヨーロッパについてひどい間違いを犯した。ヨーロッパがEU統合を機に世界平和の推進力になると予想したが、それは外れた。今や、ヨーロッパは諸国家の平等な連合体などではなく、ドイツを中心とした階層的なシステムに変容しつつある。
ヨーロッパは、内部対立を抱えている。その証拠に、多くの国が再びドイツへの嫌悪感を持ち始めている。
今勃発しているウクライナ問題は、ヨーロッパにとってだけでなく、世界にとって深刻な問題です。
トッド:ウクライナで今起きている事態は極めて象徴的だ。ウクライナでの出来事は誤解されている。これはロシアと西欧諸国の問題であると考えられているが、果たしてそうだろうか。みんな、こう考えている。「ロシアがクリミアを侵略した。当然、米国は行動を起こすはずだ。米国は面目を失うわけにはいかないから、ウクライナ政府の後ろ盾になる」。
果たして、こうした見方は正しいのだろうか。旧ソ連圏解体後の米国は、異なる資本主義にも非寛容だった。しかし、今は寛容になっている。ロシアは異なったタイプの資本主義で、昔なら米国は介入しただろうが、今はそうならないはずだ。ウクライナ問題におけるオバマのアジェンダには、介入政策はない。
最近、反ロシアの動きがヨーロッパ内に生まれている。ドイツはロシアとの関係でいつも友好と対立の狭間で躊躇してきた。そして、両国の関係はつねに友好に始まり、対立で終わってきた。
今、ドイツとロシアには重大な対立があると考える。これがウクライナ問題に関する現在の地政学についての私の見解だ。
民主主義と独裁の二面性を持つロシア
ロシアのクリミアへの関与は、新しい冷戦とも見られています。
トッド:英国の歴史学者で経済学者のロバート・スキデルスキーが、ロシアの二面性を表現する素晴らしい記事を2013年9月20日付けガーディアン紙に書いている。
その記事によれば、二面性とは民主主義であり独裁政治でもある現在のロシアの国内システムのことだ。スキデルスキーは、ロシアのシステムを表す新語が必要だと言っている。国際問題での姿勢を考えると、ロシアは自国を守ろうとする保守的な国家であり、そのこと自体は悪くはないと彼は見ている。
ヨーロッパは変貌しつつある。『帝国以後』の中に米帝国からの「ヨーロッパの独立」と題した章がある。これは全く真実だったが、米国から離れ、独立したヨーロッパとドイツの関係について、私は予見できなかった。ヨーロッパはドイツを中心とした階層構造になっているという新しい事態を予見できなかった。
今、ドイツ経済はユーロ圏で唯一好調です。その理由は、メルケル首相の前任者であるゲアハルト・シュレーダー氏の社会保障、雇用改革にあるといわれています。
トッド:フランス経済はひどい状態だ。もう大惨事となるところだ。フランス経済は、ユーロによって破壊された。ユーロを生み出すことに忠実であったフランスなのに。結果は完全に失敗だ。しかし、そこから抜け出せない。とても困難な状況にある。
私がフランスや他の国で講演をするとき、オランド大統領について話すことを拒否している。オランドはいつもドイツの後をついて行くから、私は彼に言及するたびに「オランド副首相」と呼んでいる。
(つづく)
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エマヌエル・トッドの誤解と問題点
● トッドの問題点は、社会の現象面である、人口や出生率や識字率等と言う、時代と
共に基本的に前進したり後退したりするもので、判断しようとする
ところにあります。
● 自己の理論が正しいと言いながら、一方では“世界を理解する一般的説明”を否定
しています。つまり、自らの分析の土台は、一般的ではないと言って
いるようなものです。つまり、特殊で限定的な状況に対処できると
云っているようなものです。
● それはそうでしょう。人口や出生率や識字率と言うのは、豊かさや、歴史的な
人類の急激な増加や女性等をどう扱うかという、歴史の流れや、
ある時代の文化にも依存するからです。
● 言い換えれば、時代とその栄枯盛衰を現す病態にしか過ぎないからです。病態は
その姿を理解するうえで手助けには成りますが、革命が起こったり,時代が
変わったりする事を説明できる、説明=原因とは異なります。
● 病気で云えば、脳炎は脳で炎症が起こっている事を説明しますが、炎症は病態であり、
原因では有りません。ヘルペス脳炎、日本脳炎と診断されて、初めて原因である
ウイルスが出てくるのです。ウイルスが原因であり、病態は脳炎と言う事です、
● 歴史を見れば、又現実の世界を見れば、資本主義国のみが国家形態ではない事は
すぐに分かります。ソ連は共産主義であったし、今のロシアも資本主義では
ありません。変則的な資本主義などと言う分析自体が間違っているのです。
● むしろ、ニューズウィーク誌に出ている、プーチン王朝と言う表現が有っています。
誰もサウジアラビアやイランを資本主義とは思わないでしょう。資本主義には
支配者である、王様やその取り巻きはいないのです。
● 勝利者が全てをとると言う表現は何時の時代でも当てはまり、社会の階層を説明できます。
観念である平等とかの表現を分析に使用するのがおかしいのです。歴史上、家族内でも
社会内でも国家間でも平等が貫徹されたことは一度たりとも有りません。
● 動物を見れば分かりますし、現実を見ても分かります。むしろ自由と民主主義が
平等を齎しそうですが、これも幻想であったことは、事実を見れば分かります。
● 軍国主義時代≒戦国時代は、武力が上下関係を決めたし、君主の時代は知恵あるものが
官僚の試験に受かって、支配者の一員となります。資本主義国では最も裕福な
国際金融機関が圧倒的な力を持っています。何処の時代に平等が有るのです。
● 従って競争すれば、強いドイツが全てをとるのは始めから見えます。しかし100年前は
ドイツは新興国であり、力は英仏が圧倒的でした。これも時代の栄枯盛衰であり、
世界を支配した大英帝国は崩壊寸前です。年老いた国家となっています。
● 大国の興亡は”歴史の真実です。仏が崩壊しても何の不思議でもありません。
システムの寿命と言う観点から物事を見れば、一目瞭然です。
● 太陽系でも銀河系でも、原子でさえも寿命は決まっているのです。これを法則と
言うのです。従って人類を説明できる、歴史を説明できる一般的説明≒法則
を信じないと言うのは、単に私は原子の寿命や、銀河系の事は知らないと
いう事と同じなのです。知る事を追求するのが学問です。
● 私のフラクタル歴史経済学、数理波動経済歴史学、時代の寿命説を基にすれば
? ドイツの独り勝ちも、
? フランスの崩壊も、
? ユーロの崩壊も、
? ソ連や英米仏型資本主義の崩壊も、中国の問題点も全て見えるし、説明できます。
● 是非ご参考にすることを、期待します。