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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
令和元年(2019)10月7日(月曜日)弐
通算第6224号
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バチカンはなぜ香港の民主派抗議活動に沈黙しているのか
林鄭長官はカソリック、黄之峰はプロテスタント(ルター教会)
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香港の宗教的色分けは、伝統的な道教がもちろん多数派、つぎに仏教徒が多い。人口の四割近くは仏教か道教である。
仏教寺院はごまんとあり、山の方へいくと禅寺がある。孔子廟もあるが、規模は湯島聖堂ていどである。
香港に於けるキリスト教徒はおよそ百万人弱だが、もともとがフランシスコ会の縄張りで、ローマのバチカンと繋がっている。イエズス会はマカオが拠点で、ザビエルの像があるが、香港にはない。
バチカンは近年、北京に異常接近しており、二、三年前から台湾と断交し、再び北京と結ぶのではないかという観測が流れていた。現在のローマ法王はイスラム教と和解したり、LGBTに理解を示したり、奇行で知られるが、イエズス会出身である。
香港のキリスト教も、宗派別にわかれていて、その典型例が林鄭長官はカソリック、黄之峰はプロテスタント(ルター教会)、洗礼名がジュシアだ。若者達の多くがクリスチャンネームを名乗る。周庭がアグネス、林鄭がキャリー。もともとクリスチャンの洗礼を受けて、このような聖名を戴くのだが、香港では誰でも、キリスト教儀式とは関係のない、ニックネーム代わりだ。
バプティストは米国最大の宗派で、もともと英国国教会からの分派。香港でも意外に強く、天安門事件のときの学生リーダーの西側への逃亡を手助けした。幹部の朱胡明は雨傘革命のおりに積極的に活動して逮捕され、禁錮刑18ヶ月に服した。
雨傘革命のリーダーで、こんかいの民主派運動ではスポークスマン役を演じている黄之峰は、プロテスタント系のルター派であり、その信じるところは、
「義のために迫害される人々は幸せなり、天はその人々のためにある」。
▲香港は宗教各派の坩堝でもある
一方、中国で猛烈な迫害をうけ、臓器摘出などで数百の信者が虐殺されているとする法輪功は、香港で数万の動員力がある。
そして香港の法輪功は、穏健なデモが行われると大音楽隊を率いて行列の最後尾を夥しい幟を立てて飾る。最後尾での行進は、デモ参加者の多くが法輪功とは距離を置きたいからだと言われる。
落馬州(新界の最北西、目の前が深セン)周辺は湿地帯で二重フェンスの緩衝地帯でもある。
ここからバスが元朗駅に繋がる(40分ほど)。筆者もたまたま、このバスに乗ったが、突然、乗客らの北京語の世界となった。香港は広東語で、北京語は外国語だから、如何に元朗周辺に大陸の移民が多いかがわかる。そのうえ、周辺にはためいていた幟には「邪教法輪功」という旗もあったので、二度ビックリした。
香港には「清真寺」(イスラム寺院)もあるが、中東や南アジアからの出稼ぎ移民が夥しいからである。かれらはデモ行進では見かけない。
香港のシナゴーグは中環(セントラル)の路地裏にひっそりと建っている。
内部の見学が出来ない。筆者も試みたが鍵がかかっていた。香港のユダヤ人コミュニティは存在するらしいが、ほとんど影響力がない。サッソン財閥が、この教会の建設資金を賄ったといわれるものの、現在の香港上海銀行とは無関係である。
さて、宗教の色分けをしたのは他でもない。こんかいの香港大乱で、これら宗教団体は積極支持派、中立、そしてバチカンの沈黙のように無関係を決め込んだ宗派がある。
学生、青年らデモ積極参加組はプロテスタント系が圧倒的である。ルター派、メソジストが目立つが、台湾で主流の長老会派は少ないようだ。
雨傘運動の指導者らは2016年に「香港衆志」というミニ政党を結成し、目標を立法会選挙での当選、議会活動を通じての自由法治の訴えを展開することにある。
日本で有名なアグネス・チョウこと周庭は、この政党の事務局長。従って武闘派とは距離を置くが、けっして彼らを批判しない。
周庭は両親が英国籍のため、雨傘革命までは英国籍だったから、おそらく英国国教会派(プロ手スタン)だろう。アグネスはアグネスでも、歌手のアグネス・チャンは中国寄りで、香港のデモを嫌悪しているそうな。
周庭は日本のアニメ・オタクとして知られ、それが昂じて日本語を習った。
▲「君は自由のために死ににゆくのか」
デモの先頭に立って武闘を繰り返す若者には指導者が不在である。しかしよくよく観察していると、小グループがあって、武闘訓練を重ねた集団があり、火焔瓶の作り方、投擲の分担が機能的に行われている。
武闘派には公安ならびに中国のスパイが混入し、過激な暴力行為を煽っている側面もたしかにあるが、謀略と断定するには確証が乏しい。いや、武闘派こそ、プロテスタントを信仰し、自由の大義のために死にに行くのだ。
キリストは殉教者を祭り上げている。
「義のために迫害される人々は幸せなり、天はその人々のためにある」(マタイ伝、福音書五章)。
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それはバチカンは資本主義崩壊と同時に崩壊する運命だからです。戦士戦国時代に制裁を受けるのです。
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