「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成31年(2019年)2月19日(火曜日)
通巻第5996号
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面妖で奇怪な五角関係(ペンタ・リレーションズ)
米国とタリバンの和平交渉はCPECの死活に関わり、そこにサウジが介入
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ややこしい関係を解きほぐしてみると。
まず米国とタリバンの和平交渉が続いている。両者はかなり前向きである。米国は地獄のアフガニスタンからさっさと撤退したい。タリバンは政権の掌握が射程に入り、しかも中国と抜き差しならない関係にある。
危険極まりないアフガニスタンで銅鉱山を開発しているのは中国である。
タリバンが支配するアフガニスタンのカンダハル地方は長年にわたっての無法地帯、一時は米国が総攻撃を仕掛ける作戦を練っていたが、途中で放棄した。
いまも無法地帯にかわりなくアフガニスタン政府の統治が及んでいない。この地方が、BLAの出撃基地となっている。BLAとは「バロチスタン解放軍」。つまりパキスタンからバロチスタンを独立させるべく、武装闘争を継続する過激武装組織で、六つあるといわれるバロチスタン武装グループのなかでも最大派閥だ。
州都のクエッタで中国人二人を誘拐・殺害し、グアダル港の中国企業の工事現場を襲撃し、中国人労働者を乗せた車を爆破、ついに2018年11月23日には、カラチの中国領事館に自爆テロを仕掛け、警官三名、自爆側四名、合計七名が死亡した。
もともとバロチスタンの独立運動諸派が武闘に至ったのは当時のムシャラフ大統領とBLA指導者の話し合いが、金鉱脈利権、銅鉱山開発などの問題で折り合いが付かず、直後に(2006年8月)指導者ナワブ・アクバル・ブジテがバロチスタンの山岳地帯で暗殺された。
パキスタン軍特殊部隊の仕業とされるが、パキスタンは関与を否定し、「あれはインドの陰謀」と決めつけた。
バロチスタン州は、もともと独立国であり、いまもロンドンに亡命中の国王がいる。パキスタンに帰属するとは考えておらず、パキスタン政府が中国と結んだ、合計620億ドルものCPEC(中国パキスタン経済回廊プロジェクト=一帯一路の目玉)は、バロチスタン州の資源を収奪する悪魔の仕業と認識している。
工事現場は危険に満ちており、しかも原油、ガスのパイプラインに鉄道、ハイウェイ、そして光ファイバーの敷設工事がグアダールから延々と新彊ウィグル自治区のカシュガルへの繋げるのだ。
パキスタン軍が一万五千、くわえて中国が雇用するプライベートアーミー、さらに特殊部隊が警備に当たっている。クエッタでは中国人の個人的外出は許可されず、警備兵つきの集団移動が日常の風景。
▼パキスタン軍も陰謀にかけては中国も舌を巻くほど
他方、パキスタンも無策ではない。18年12月、BLA指導者のアスラム・バローチを潜伏先のカンダハル市で暗殺した。これは11月23日のカラチ中国領事館自爆テロの報復作戦とされる。
この状況を改善するにはアフガニスタンのカンダハル地方の出撃基地化を壊滅させる作戦の如何にかかっている、そのために米軍は、タリバンとの交渉の後にいる中国に介入を期待しているという図式になる。
なにしろパキスタン軍情報部も陰謀にかけては中国も舌を巻くほど巧妙・狡猾である。
しかし、パキスタン経済は極貧のまま、中国からの借金を返せない。
イムラン・カーン(パキスタン首相)は訪中し、救済を要請した。李克強首相は「両国関係は全天候型であり、あらゆる協力を惜しまない」と発言したものの、約束した緊急支援の20億ドルはまだ送金されていない。
2月17日、サウジアラビアのサルマン皇太子がイスラマバードを電撃訪問した。
すでにカーン首相は二回サウジを訪問し、50億ドルの緊急支援を得たが、こんかいの正式訪問でサルマン皇太子は、七つの契約書に署名し、合計200億ドルのプロジェクト支援を表明した。皇太子は18日インドを訪問してモディ首相と会談。20日に北京を訪問する予定という。
かくしてインド、パキスタンの宿命の対立に、パキスタン支援の中国とサウジの主導権争い、そこにアフガニスタンと和平交渉を進展させようと意気込む米国という、面妖極まりない南アジアの相関図が見えてきた。
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