「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和2年(2020)11月2日(月曜日)
通巻第6686号
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(読書特集)
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六四回顧録編集委員会編『証言 天安門事件を目撃した日本人たち』(ミネルヴァ書房)
岡部伸『新日英同盟』白秋社)
樋泉克夫のコラム (知道中国)
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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スエズ以東に去ったはずの英国が、スエズ以西へ復帰する
英国外交に画期的な転換が起きている
岡部伸『新日英同盟』白秋社)
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事実上の「日英同盟」が画期的と言って良いほどの新らしいフェイズに突入している。
気がついていないのが、じつは多くの日本人だ。
第一に英国主導で「ファイブ・アイズ」に日本を加えようと言うのである。ファイブ・シックス(六眼)になるわけだが、安全保障に疎く、国防意識が低く、スパイ防止法もなく、インテリジェンス戦略に致命的欠陥のある日本を、ジョンソン政権が招いて呉れるというのだから、日本外務省は狂喜して飛び上がるのかと言えば、反応が鈍い。
これはどうしたことか。
評者(宮崎)も知らなかったが、英国の兄弟国(豪、カナダなど)への態度と同様なものが、日本に対して向けられているという。
(イギリス人も変わったなぁ)
戦前の日英同盟は、戦略的打算から生まれた乾いた関係だった側面がある。
しかし北京が混乱に陥った義和団の暴走に日本の柴五郎中佐が鎮圧の作戦指揮を執り、騎士道精神のイギリス人は、武士道精神をみた。これが日英同盟締結への資源的な動機である。
「日本兵の勇気と大胆さは驚嘆すべきで、わが英水兵が続いたが、日本兵のすごさはずば抜けて一番だった」(英国公使館員)とピーター・フレミングは『守城の人』に書いた(197p)。
(蛇足だがペーター・フレミングは「007」を書いたイアン・フレミングの兄。そういえばショーンコネリー、90歳で死去。これも蛇足)
バルチック艦隊の航海中、寄港地での妨害や、情報提供など、英国のインテリジェンスの協力があって、日本はロシアに勝てた。
だがその後、日本が大きく国力を飛躍させ、米国が脅威と見なすようになって、英国にも不利益となるや、さっと同盟関係を破棄し、大東亜戦争では日本に刃を向けた。「愚かな指導者チャーチルに責任がある」とするのは近代史家の渡邊惣樹氏だ。
第二にアジア太平洋同盟の安全保障に対して、英国が積極的なことも、大多数の日本人が認識できていない。
トランプ政権主導の日米両国に、インド、豪を加えた同盟関係は、いずれNZを加えることになるだろうが、英国が前向きになっているのだ。
コロナ以前までの「英中蜜月」という時代は、とうに終わりを告げ、ロンドン政界からオズボーンら親中派は舞台を降りた。
中国が原発と高速鉄道プロジェクトから撤退すると英国を脅しても、ジョンソン政権はびくともせずに、ファーウェイを排除すると正式に決めた。中国の動揺は計り知れないものがあるだろうに、中国外交部は強がりの言辞を吐き、習近平も仏頂面。英国の断固たるファーウェイ排撃はフランス、ポーランドに及び、イタリアも従いそうだと岡部氏は指摘する。
「コロナ災禍を機にAIIBも白紙に戻る覚悟がある」(首相官邸筋)、「『脱中国』に舵を切ったイギリスは『中国との『黄金時代』』に幕を閉じた」(70ページ)。
第三に英国は『泥舟』のEUから脱出し、欧州にも新しい同盟関係を打ち出している。これは本気なのである。
「民主主義陣営の欧米間は、ドナルト・トランプ政権になってから、北大西洋条約機構(NATO)における『応分の負担』問題や、イラン核合意からの離脱、気候変動への取り組みに関するパリ協定からの離脱、世界保健機構(WHO)からの離脱などの問題で溝が埋めようもないほど拡がった」と岡部氏は背景を指摘する。
したがって合理的な結論とは「日本の指導者は、中国に擦り寄るよりも、イギリスとの関係をさらに強固にすべきである。『新・日英同盟』が構築されれば、日米にイギリスを加えた日米英の連携で、グローバルかつパワーバランスが安定する海洋同盟が誕生する」ので、あり、これが「世界平和を担う史上初の『グローバル海洋同盟』が生まれる」(45p)とする。
本書は新しい指針を指し示している。
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