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防衛装備をベトナムに輸出 首相、訪問時に協定署名へ 2020/10/14 2:00 (2020/10/14 4:35更新) 日本経済新聞 電子版政府はベトナムと防衛装備品の輸出に関する協定の締結に向けて調整する。菅義偉首相が来週、就任後初の外国訪問で署名する見通しだ。転売の際に日本の同意を求めるなど輸出時のルールを定める。南シナ海で軍事拠点化を進める中国の動きを踏まえインド太平洋地域の防衛力を強化する。
首相は13日の自民党役員会で、来週にベトナム、インドネシア両国を訪問すると正式に表明した。南シナ海を囲む両国首脳との会談で焦点の一つになるのが、対中国をにらんだ安全保障協力だ。
なかでもベトナムは南シナ海で人工島の建設を進める中国と領有権を争う。4月には中国海警局の船艇がベトナム漁船に体当たりし沈没させる事件も発生した。
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南シナ海は中東とアジアを結ぶシーレーン(海上交通路)に位置し、日本の安全保障にも直結する。中国に自制を促し南シナ海の海洋秩序を守るため、ベトナムとの連携を強化する。
ベトナムと結ぶ協定の名称は「防衛装備品・技術移転協定」。日本で生産した防衛装備品を輸出する法的枠組みになる。
日本は2014年に防衛装備移転三原則を策定した。(1)紛争当事国への移転禁止(2)平和貢献や日本の安全保障に資する(3)第三国移転は事前同意を義務付け――を満たす必要がある。輸出先は協定で三原則を確認した国に事実上限定している。
協定は米国、英国など9カ国と締結済みで、東南アジアではフィリピン、マレーシアに次ぐ3カ国目となる。
輸出する装備品はベトナムの要望を踏まえて検討する。日本は国内で生産するP1哨戒機やC2輸送機を海外に売り込んでいる。8月にフィリピンと納入契約を結んだ三菱電機製の警戒管制レーダーも候補になる。
哨戒機などの防衛装備品には国内の多くの企業が関わる。防衛産業は研究開発に時間や投資が必要で、撤退する企業も出ている。防衛省は装備品の共同開発や輸出案件を増やし、国内の防衛産業基盤の維持をめざす。
14年に輸出を一部解禁して以降、実際に完成装備品を売却した例はフィリピンの警戒管制レーダーの1件のみ。政府はインドネシア、タイとも協定の締結を交渉しており、東南アジアを中心に輸出案件を掘り起こす。
ストックホルム国際平和研究所によるとベトナムの直近10年の武器調達先はロシアが8割を占める。旧社会主義国時代にソ連から調達した経緯がある。近年は対中国で日米との防衛協力を進めており、日本は調達先の分散を提案する。
■ASEANと協力拡大 南シナ海、中国を警戒
政府は南シナ海への中国の進出を受け、東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携強化に力を入れる。
同地域は中国を警戒する一方、中国からの経済支援を受け中国依存を強める国もある。日本は東南アジアを「自由で開かれたインド太平洋」構想の中心に位置付け、経済分野に加え、防衛協力での関係も深める。
日本大使館に勤務する防衛駐在官も重点的に配置する。フィリピン、ベトナム、マレーシアにはそれぞれ2人が駐在し、情報収集や交流を担う。
具体的な防衛協力の深化も進める。海上自衛隊とフィリピン海軍は19年に計4回の共同訓練を実施した。インドネシアとは2回目となる外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)の早期開催を調整している。タイとは防衛当局間の協力・交流を深めるために覚書を結んだ。
装備品の供与は地域の防衛力を高めると同時に、防衛当局間の意思疎通を深める意義もある。
フィリピンとは警戒管制レーダーの輸出のほか海自のTC90練習機5機を無償譲渡した。陸上自衛隊で不要になった多用途ヘリコプターの部品も無償で渡している。
マレーシアには海上保安庁の中古巡視船を補修し、供与した。すでに防衛装備品・技術移転協定を結び、装備品の輸出をめざしている。