「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和二年(2020)4月21日(火曜日)
通巻6459号
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米国の失業率、4月初旬の2200万人は既に1931年レベル
四月末には1933年レベルの懼れ、事実上の「大恐慌」だ
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リュック・モンタニエ(フランスの生物医学ノーベル賞受賞者)は、HIVの発見で有名。そのモンタニエ博士が、武漢ウィルスを「人工ウィルス」と断定するに至って、中国の武漢の生物化学兵器研究所から漏れたことは確実となった。
欧米列強は、ほぼこの見解で足並みを揃えた。日本も「新型肺炎」とかの曖昧な表現をやめて、中国元凶説を主張しつづけよ。
英首相も独首相もコロナに感染し、メルケルは独国民の60%が感染するだろうと不気味な予告、死亡が世界一となった米国は戦略変更を余儀なくされる。
一帯一路を経済梃子入れと期待したのが、スペイン、伊太利亜、仏蘭西、英国、ドイツだった。いま中国は「健康のシルクロート」などと獅子吼して医療チームを派遣し、マスクを寄付する欺瞞外交を展開しているが、欧米ばかりか、世界ではチャイナ・バッシング。
「健康シルクロート」は「病原菌シルクロート」となった。
中国の野望だった一帯一路プロジェクトは大音響と共に、各地で崩壊したか、崩壊中である。同時に中国の負債が9900兆円から、まもなく1京円を突破するだろう。これは同時にアジア各国に激甚なる経済破綻の波となる。
しかし、一等重視すべきは、このコロナ災禍で、国際政治の大変革が起こり、地政学的には、パックス・アメリカの大後退が予想されることである。
ならばその分を、中国の軍事力が進出して代替するかと言えば、それもNOだ。中国自身が、世界にいかに孤立しているかを知っている。バッシングの風当たりが強烈なことも知覚している。
極東に限って言えば、北朝鮮がICBMを保有しない限り、トランプは北朝鮮を攻撃する可能性はないし、台湾を守ると言っても、本気かどうかは疑わしい。
というのもトランプ大統領のみかわ、だれがなろうともアメリカは軍事的な世界関与への関心をなくしつつあり、戦略爆撃機基地をグアムから米国本土中西部に引き揚げる。
虎の子の空母は四隻の乗組員がコロナに感染し、物理的な作戦行使が難しくなった。米海軍の戦略展開が機能不全に陥っているのだ。
▼未知なる不確実性、霧はまったく晴れない
「コロナ以後」の世界は変革(もしくは改悪)に遭遇し、未知の不確実性に蔽われたまま、霧の中での新しい試みが始まるだろう。
NBR座長のニコラス・エバースタットは、中国基軸のサプライチェーンは編成し直しとなって、現在世界のGDPの60%を占めるAPECにインドを加える巨大経済圏が次を指導するのではないかと予測している(NBRレポート、4月18日)。
イースター(4月12日)までに解決するとトランプは極めて楽天的だったし、被害の想定を四月初旬まで楽観的にみていたウォール街も経済学者らも、米国を筆頭に欧米で死者が戦争並みの犠牲を越えていることに愕然とした。それまでに被害想定を低く、小さく、楽天的に数字を想定していた。
被害はとうに香港風邪の規模を越えており、チェルノブイリを越え、死者はヒロシマの犠牲者を越えた。
現在は「クリスマスまでに」という標語だが、これも危ないのではないだろうか。
現実は感染者の急拡大、死者の鰻登りの悲惨な数字が並び、柩も足りず、死体置き場もない。外出が禁止され、ビルは封鎖され、スーパーへ買い物に行けば行列は2メートル間隔。
米国の失業率、4月初旬の2200万人は1931年レベル(15%)。四月末には1935年レベル(20%)、そして五月には1933年の最悪レベル(25%)となるだろうが、これは事実上の「大恐慌」だ
キンドルバーガー教授に代表されるように1929−1933年の「大恐慌」の反省はなされ、研究は進んでいたため、何が失敗の原因であり、何をしなければならないかを事前学習している。
大恐慌の研究で知られたベン・バーナンキは、先々代FRB議長だが「ヘリコプター・ベン」の異名ととったほどに財政をばらまき、通貨供給の流動性を高めた金融通貨政策を採用した。
したがって今回の米国政府の対応は大胆な財政出動だった。欧米、日本、豪も追随しての国際協調は西側の連帯を金融関係では強めた。
だから非常事態宣言から三週間でウォール街の株価は38%下落したが、すぐに32%反騰した。不思議というより、FRBの即応ぶりに対しての投資家の反応である。
しかしコロナ災禍の「長期化」は確実だから、再々の金融財政出動にいずれ資金が枯渇すれば、通貨の破綻、債権の紙くず化、そして「徳政令」の出現があるかも知れないではないか。いや、現在の給付金や企業への貸しだしは、見方を変えれば徳政令に似ている。
しかも、コロナ災禍大恐慌は、世界同時多発的であり、特効薬の発明があっても途中で数回の感染揺れ戻しが繰り返されるだろうから、収束には弐年以上の時間を要することは確実である。
幸いなことに世界の列強はテレビ会議で意思の疎通が図れるような時代であり、また情報伝達は瞬時にして世界同時、情報の遅れで対応が決定的に遅延するという政策ミスは少なくなった。
▼現実に社会生活はパニックに襲われている。
まもなくアフリカ諸国、アジア、中東の最貧国の被害は、凄まじい災禍となるだろうが、先進国が支援するような余裕がない。医師団の派遣も医薬品の寄贈もままならず、当該国家に対策を任せることになる。アフリカで一斉に中国批判の声が広まっている。
消費の落ち込みは確実にGDPを押し下げる。
IMFはまだ楽観的に世界経済はマイナス3・3%、日本がマイナス5・9%、アメリカがマイナス5・7%などと楽観的予測を出しているが、日米でマイナス15%−20%、中国はいきなりのマイナス50%となっても不思議ではない。
げんに2019年度第四四半期の日本のGDPはマイナス7・1%だったし、中国は初めて2020年第一四半期のGDPをマイナス6・8%と公表した。
これらの数字は率直に言って信用できない。とくに中国の数字は五倍か十倍にしなければ実態にそぐわない。
豪ヴァージン航空が破産申請した。米国高給デパート「ニューマン&マーカス」が経営破綻に至り、すでに中国、香港から旗艦店を撤退させているプラダ、フェルガモなどの有名ブランドも、経営危機に陥る可能性がある。
なぜならパラダイムシフトが起こると、日常生活では食糧買いだめ、備蓄と医療出費が家計の優先課題となり不要不急のものには見向きもしなくなるからだ。
バブル時代に紳士淑女は高いカルチェやダンヒル、デュポンのライターを持っていた。いま、誰が使っているのか。百円ライターが主流となり國際機場の免税店で目玉のコーナーから、いまや何処にも売っていない。
同様にグッチ、ディオールなど、あるいは自動車にしても、実用車、SUVは売れ続けても、高級車は敬遠されるだろう。
パラダイムシフトの行き着く先はまだ濃霧の中である。
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● さすが宮崎さん。歴史の転換点を的確に・鋭くとらえています。
● 私の予想通り・着々と進むパラダイムシフト。肉を切らせて
骨を断つ”戦略で、トランプ氏の反中政策にボディーブロー
をかませた習近平。独裁国家・人口大国の怖い背水の陣。
● どの陣営が勝つにしろ備えなければならない。前回の旧ソ連との戦いは、
ソ連のシステムが老朽化した(人間でいえば老人で寿命の終わりが
近づいていた)ために、第三次大戦は杞憂で終わったが
● 今回は、中共の生きる時代はその最盛期(人生でいえば若い中年)
であるので、西欧のシステムが先に崩壊します。つまり、
西欧文明・西欧資本主義の崩壊過程が始まるのです。
● その前には、第三次内戦型世界大戦が起こり、それから連続する
西欧の崩壊・内戦・カオスが世界に混乱を起こします。
そして、中共という火事場泥棒が暗躍する時です。
● 日本の味方は、東南アジア(少し不安定だが)とインドが主体と
なります。少なくともロシアは中立に持ってゆかなくては
いけません。敵にするのはリスクが大きすぎます。
● 備えあれば患いなし。