宮崎正弘の国際情勢解題」
令和二年(2020)4月3日(金曜日)弐
通巻6432号
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バングラデシュ、突然の破局。繊維産業で100万人が失業
西側ブランドの縫製工場、注文が殆どキャンセル。現場に悲鳴が
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過去数年、バングラデシュのGDP成長率は6%から8%という高い数字を重ねてきたため瞠目するエコノミストが多かった。
とくに中国など外国企業の進出が続いた。繊維、雑貨、スポーツシューズ、玩具など、川下産業が賃金の安さを求めて、工場建設、拡大、輸出増大という拡大スパイラルに乗って、景気は良かった。
この現象はインドからパキスタンにかけても同様だが、とくに繊維産業はバングラとスリランカに集中して投資が行われた。
中国発コロナ・ウィルスは世界的規模で小売り、デパート、洋装チェーンに客足が途絶えた。ZARAもH&Mも、ユニクロもベネトンも、急減する売り上げに顔面蒼白、いくつかの店舗をたたみ始めた。
こうなると次期シーズンの注文をキャンセルせざるを得ない。
BGMEA(バングラデシュ服飾輸出組合)の統計に拠れば、失われた注文残はバングラデシュ全体で24億ポンド(邦貨換算3200億円)。経済のパイが小さく、アパレルはバングラデシュの輸出の主力であり、経済の展望がいきなり黒雲、雷雨。
ファーストレティリング(9983)の販売網「ユニクロ」はバングラデシュでグラミンと合弁で十数の店舗を展開している。消費が急減し、中国の店舗のみならず韓国も苦戦、そして日本の販売もガタ落ちとなって、同社の株価はピークの70230円から、40940円(4月2日)に急落した。下落率は42%。日経新聞は下落率トップ、押し下げに貢献した、と書いた。
首都ダッカの外国人居住区は豪華マンション、ショッピングモールが立ち並び、インテリアのかねをかけたレストランからワインバーもある。数年前に日本人多数が銃殺されたテロ事件も、この周辺のレストランだった。
H&M,Tesco,ZARA、NEXT,MarkSpencer等はバングラデシュに注文を出して、生産中だった13億ポンド分をキャンセル、およそ300社ある繊維、アパレル工場は、悲鳴を挙げながら従業員、とりわけ女性のミシン工を解雇。その数は百万人にのぼる。百万の失業が最貧国に溢れたのである。
ミシン女工の賃金は月収5000円くらいで、付近の農村から大挙、押しかける。この収入で一家の食費を賄っている世帯が多いため、解雇は農村経済に致命的となる。
数年前、バングラデシュのダッカに滞在中、早朝、ぞろぞろと歩いて工場へ出勤する女性の大群にぶつかったことがある。じつに壮観。合計二百万の女工さんが輸出の担い手だったのだ。
HMなどは注文した分に関しては支払いを約束しているが、夏物衣料のあと秋のシーズンの新規注文は途切れている。
おそら同じ光景が、アパレル工場が蝟集するタイとミャンマー国境、カンボジア、ベトナム、スリランカなどで展開されているに違いない。
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