宮崎正弘の国際情勢解題」
令和弐年(2020)1月17日(金曜日)
通巻6342号
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マトリョーシカもビックリ、ロシア内閣、唐突な総辞職。
新首相のミハエル・ミシュースチンって誰?
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15日、セルビアを訪問する直前のプーチンが、突如、メドベージェフ首相を更迭し、内閣総辞職を断行させた。そのうえで、まったく無名のミハエル・ミシュースチンを新首相に指名、ロシア議会はただちに承認した。
セルビアの首都ベオグラードでは治安悪化にそなえて警備態勢を敷いていたが、プーチン暗殺計画のテロリストを拘束したと発表した。
メドベージェフ内閣の総辞職というサプライズに動揺したのは株式と為替相場。ルーブルは対米ドルレートを61・81から68・86に下落させた(1ルーブル=1円77銭から1円62銭に)。ちなみに現在の新ルーブルがソ連帝国崩壊後に発行されたおりは1ルーブルが6円ほどだったから、通貨は徐々に旧ルーブルのような紙くず化を演じていることが歴然となる。
原油相場の暴落がロシア経済低迷の主因である。だが、新興財閥のロシア特権階級が破天荒な汚職を展開し、その資産を英国、米国に分散して蓄財していた。
ところがロシア経済制裁を課している米国が在米資産凍結としたため、ロシア経済低迷を加速させ、とどのつまり、ロシアが経済的に依存するのは中国ということになる。せめて心理的状況の改善をとばかり、プーチンが命じたのは、サンクトペテルブルグに宏大なプーシキン記念館を設立したことくらいだ。
原油・ガスのほか、ロシアが輸出して稼げるのは武器しかない。ロシア製の自動車は西側で買う人がいない。ウォッカ? メチル入りの偽ウォッカが出回っているため、ロシア人は自国ウォッカを飲まず、米国産かスウェーデン産を呑んでいる。そのうえ、近年のロシア人の志向はスコッチ、アイリッシュ・ウィスキー、そしてニッカへ変化した。
それはともかく、「ノルド・ストリーム1」は、対独向け輸出が継続されているが、「ノルド・ストリーム2」(バルト海海底をパイプラインで繋ぎ、欧州へ輸出)は米国が制裁中のため、工事がストップしている。
プーチンはこのためサウザンルート(南方油送管)、すなわちトルコ経由ギリシア、ブルガリアルへの開拓に着手し、長年敵対したトルコのエルドアン政権とにこにこ人工的な笑いを浮かべながら握手したのだった。
▲新首相は税務署あがりなのに、なぜか資産家
さて、突然のメドベージェフ首相辞任、内閣総辞職だが、メドベージェフは新たに国家公安委員会副議長の職に就くとされる(モスクワニュ−ス、1月16日)。
ならば税務署あがりの新首相ミハエル・ミシュースチンって何ものなのか? 無名ながらもプーチンの親しい間柄でホッケー仲間とされる。
地味な経歴、その仕事のわりに豪邸を構えていることで知られる。
モスクワ郊外ルブリヨブカに敷地面積5500平方メートル、建物が700平米というから相当な豪邸だが、ミシュースチンは2001年から05年まで、この不動産のオーナーとして登記されている。
以後は「ロシア財団」が持ち主となっている。ところが前掲モスクワニュースによれば、ロシア財団の事実上のオーナーはミシュースチンの息子二人。資産価値は950万ドル。(10億5000万円弱)。またミシュースチン夫人は同財団から八年間に1250万ドルの報酬を受け取っていた事実も浮かんでいる。
多くのロシアウォッチャーは、プーチンが近日中に改憲を提議し、2024年以後も権力の座を維持するための「院政」の準備段階に入ったのだろうと分析している。
あるいは憲政にしたがって三度、首相の座について、大統領をコントロールするか、というのも、新首相に指名されてミシュースチンが、次期大統領に就くというシナリオがあり、その場合、憲法改正をおこなって、またもや大統領は飾り(メドベージェフが「大統領」時代、まさにプーチンの操り人形だったように)として振る舞うのか、いずれにしても憲法改正が政治日程にのぼってくる。
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