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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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旧ソ連の暗号が解き明かされ、スターリンの謀略が裏付けられた。
執念深きスパイ暗号の解読作業は1980年まで続き1995年に公開された
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ジョン・アール・ヘインズ & ハーヴェイ・クレア著 中西輝政監訳
『ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動』(扶桑社)
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ようやく待望の本、日本語訳がでた。
現代史の謎、とりわけ西側と全体主義との対立と熾烈な謀略工作、陰湿なスパイ活動が、この機密文書の公開であきらかになった。英米では、研究書も多数発行されて話題となっていたが、日本の近代歴史学者が等閑視し、無視してきた。
左翼学者は触れようともしなかった内容だけに、衝撃をもって日本の歴史論壇を巻き込むだろう。
戦後のスパイ事件も数多いが、近年とくに注目を集めたのはレフチェンコ証言だった。KGBの工作員だったレフチェンコは米国に亡命したあと、米国議会公聴会で、日本におけるソ連スパイのジャーナリスト、学者、文化人を担当し、世論工作に従事した全容の証言だった。
日本人の「影響力のある代理人」「自覚のないエージェント」たちのリクルート方法から、いかなる工作によって日本の世論を誘導出来たかをとくとくと語った。
すぐに評者(宮崎)が翻訳し、注目度が高くロングセラーとなった。関心が高かったのだ。そのうえ、当時はまだソ連の軍事的脅威が目の前にあった。
ソ連崩壊後、ノモンハン事変を含む多くのソ連時代の機密文著が公開され、つぎつぎと真実が明らかとなった、戦後の歴史論壇を壟断してきた左翼学者やジャーナリストは真っ青になった。
この「ヴェノナ」と呼ばれる夥しい機密文書は、最近の「パナマ文著」や「パラダイス文書」とはまったく趣が異なり、国家安全省に直接的にかかわる機密の宝庫である。なにしろルーズベルト政権は、ソ連の諜報活動に操られていたのだ。
しかも戦争中からはじまっていた解読作業を妨害し、中止命令をだしたのは大統領側近だったカリーだった。カリー大統領補佐官はまぎれもなくソ連のスパイだった。
原著者らは、この文書の発見までにどれほどの苦労を重ねながら、ついに機密のありかにたどり着いたか、それをさらりと語る。
戦争中に暗号の解読作業は続けられていた。当時、米国の諜報機関はドイツの「エニグマ」と日本軍の暗号解読を優先させており、ソ連の暗号解読はやや遅れ勝ちだった。寧ろ英国の情報機関のほうが一歩さきを走っていた。
あまりに衝撃的な内容を含むため、この機密文書を封印し、じつに1995年まで、アメリカでは公開されなかった。
暗号が複雑極まりない技術の粋ともいえるレベルだったのに比較して、一方でKGBのニックネームの付け方には安直、想像で解きやすいカバーネームが散見された。
「自分たちにとって憎い敵であるトロッキストやシオニストには、それぞれ『イタチ』と『ネズミ』といった強い軽蔑を示す」ものであったし、「FBIは百姓小屋、首都ワシントンはカルタゴ」などと「ソ連が暗号通信文でのカバーネームを選ぶ際にはしばしば安全を軽視したためにアメリカの防諜機関が有利になった」。
アメリカ共産党は、ソ連と密接な連絡網を構築し、新聞、ラジオに浸透していたが、『TIME』にもスパイがいた。大ジャーナリストの秘書もスパイだった。ハリウッドにもスパイ工作が展開されていた。
これらの活動も、実名と暗号名とが並記されており、いかに宣伝、情宣戦争にソ連が重点を置いていたかが分かるだろう。現在の中国共産党の暗躍ぶりも、日本のメディアへの浸透をみれば明らかだが、日本にはスパイ防止法がないため、半ば公然と情報工作が行われている。
本書が最大のソ連スパイ研究文献となったのも、著者らの地道な研究である。それゆえに米国の左翼が「偽造文書」だとか、陰謀とか言って、消し去ろうとした。
しかしヴェノアに拠って、ルーズベルト政権の中枢におよそ200名のソ連スパイが陣取り、そのうちの百名の実名が判明した。
副次的な成果としては英国、豪、カナダに於けるソ連のエージェントを特定できた。ポーランド将校団1万4000名を処刑した「カチンの森」も、ソ連はナチズのやったことを主張したが、ソ連軍の仕業であり、スターリンの命令だったことも、ヴェノナ文書が傍証した。
問題は、アメリカに於けるスパイの実証だけではなく、これが日本の占領政策と憲法にいかなる影の要素となっているか、これらが日本の近代史研究家に課せられた大きなテーマである。
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太平洋戦争の主犯・朱に交わった大戦時のルーズベルト政権。
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