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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成31年(2019)4月9日(火曜日)
通巻第6038号
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ギリシアのピレウス港。中国資本が買収したが、「その後」何が起きているか?
クルーズ船ターミナル増設工事プロジェクト、突然の座礁
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ギリシアのピレウス港ターミナルの運営権を中国が30億ドルで買収し、地中海の一大拠点として欧州各地へのコンテナセンター、物資運搬のハブとして活性化させてきた。
財政難に喘ぎ、債務不履行寸前だったギリシアとしても苦肉の策だった。しかも、それを決定したのが左翼政権だったから、いうこととやることの違う典型例と言われた。
中国はピレウス港拡充、物流のハブ化プロジェクトを、欧州の入り口におけるBRI(一帯一路)の戦略的要衝として位置づけて気勢を挙げた。
直後から中国が管理するターミナルでは不正インボイス、人間の密輸などが問題視されていた。
次に中国はイタリアを狙った。イタリアはG7加盟国で唯一「BRI覚え書き」に署名した。西側の一画が崩れたと分析するメディアも多かった。
ポンペオ米国務長官は「安全保障とBRIが密接に繋がっている」とイタリアの対中協力に強い懸念を表明し、「条件があまりに良すぎて、本来実現の見込みが薄い取引を、なぜ中国が持ちかけているのか自問すべきだ」と率直な苦言だった。
中国のイタリアにおける戦略的目標はアドリア海の最終地点トリエステ港である。ピレウスからバルカンを北上する鉄道の輸送力には限界がある。トリエステ港の拠点化で、一気に欧州市場へのアクセス強化が狙い。
しかしNATO諸国が神経を尖らせる。トリエステと言えば、チャーチルが演説した「鉄のカーテン」の南端であり、実際に1990年までイタリアとスロベニアの国境ノヴァ・ゴリッツァは高い壁で仕切られていたのだ(拙著『日本が全体主義に陥る日 ——旧ソ連三十ヶ国の真実』、ビジネス社の写真を参照)。
さてピレウス港のその後は?
中国の国有企業COSCOは新たに17億ドルを投じてクルーズ船ターミナル増設工事の青写真を提示し、港一帯を一大商業地区として、豪華ホテルも建設するなど、グランドデザインは薔薇色、その背後にある軍事拠点の目論見を誰も問題視しなかった。
しかしギリシアにもナショナリストがいた。ギリシア政府は前向きだったが、当時の財務大臣のバロウフォオスが正面から反対に回った。
▲ジブチが中国の経済植民地化という前例
悪例がジブチだった。ピレウスは運ばれる海運の殆どはスエズ運河を経由してくるが、その紅海の入り口を扼するのがジブチであり、旧フランス領である。そのジブチが一党独裁政権の下、いつしか中国の「経済植民地」に転落していた。
マクロン仏大統領は警戒を怠らないが、旧宗主国フランスより、警戒を強めるのが米国である。
トランプ政権はオバマ前政権とはことなって地政学を重視する。ボルトン補佐官は「賄賂と不透明極まりない遣り方で、負債を政治的材料に武器として活用し、影響圏の拡大を図っているではないか」と発言を繰り返す。
ジブチには米海軍基地があり、周辺には日本の自衛隊も駐屯している。アデン海の海賊退治のための国際協力の一環だが、米軍の世界戦略上、インド洋のディエゴ・ガルシアとならぶ重点基地であり、隣に造成された中国海軍基地を「国際協力」だけと認識するには、規模が大きすぎる。
実際、ジブチの負債は2017年のIMF報告で対GDPの比率が50%から85%へ急膨張していた。ほとんどが中国からの借金である。中国のマネーの攻勢に、独裁のジブチ政権がむしろ積極的に飛びついたのだ。その背後には巨額の賄賂がつきまとう。
「エチオピアからジブチを?ぐ鉄道もすでに完成したが物資輸送というよりも、別の思惑で中国が活用している」とはインド軍事筋の読みだ。
アフリカの東部を?いだ鉄道網、ハイウェイは中国の農作物のルートでも活用されている。エチオピアは旧イタリア領土、小誌が前にも述べたように、ジブチの駅舎は中国語表記、次がアラビックだ。
かくして経済植民地然とした国では賄賂で政治家が転ぶ。
中国はジブチに軍事基地を造成し人民解放軍兵士一万が駐屯させ、その周辺に工業特区、免税特区を建設中。「ジブチをアフリカの蛇口に!」が合い言葉である。
蛇口は40年前に、改革開放を開始した中国が深セン大開発の入り口として、海上運搬の拠点化した。
しかしジブチの国民の79%は貧困層、とくに40%が最貧といわれ、WFGは食糧支援を継続してきた。この国内の貧困を無視して、中国の賄賂に浸る独裁政権は、金銭的醜聞にまとわれ、国民から怨嗟の声に包まれている。
▲ギリシアは貧乏とはいえ、歴史を誇りとしている
この危機を目の前に目撃したギリシアにおいて対中警戒が強まるのも主権国家として自然の流れだろう。
「したがってギリシアは、中国の植民地でもない。不透明な方法で浸透をはかる中国を排斥するべきであり、異文化の資本で、古代からのギリシアの歴史的価値を売り渡してはならない」とバロウフォオス前財務相が正論を吐いたのだ。
中国の開発計画青写真のなかで、プロジェクトが予定される地区のおよそ半分がギリシアの考古学的遺跡という事実とが判明し、ギリシア考古学会が反対を声明するに及んで、この計画は暗礁に乗り上げた。
「ギリシアのイリアス神話以来の考古学的遺物、遺跡を破壊する北京のドル外交に屈服して良いのか」というナショナリズムが高まる。
なにしろ歴史的な神話を誇りとするギリシアは、この点になると意固地になり、隣国の付き合いでも激しく衝突し、アレキサンダー大王の出身地をめぐって、とうとうマケドニアの国名を「北マケドニア」に改称させたし、まとまる寸前までいきながらもトルコとはキプロス問題の決着が付かない。
財政危機においても、EUとの交渉で粘りに粘るという執着の強さは、他国から見れば「妥協を知らない独善」と不評なのだが、他方、一部のメディアは「中国から有利な条件を引き出すためチプロス政権の『遅延作戦』でしかない」とする見方もある。
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