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川口マーン恵美から見える、西欧の大崩壊と日本のライバル・ドイツ

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成30年(2018年)3月25日(日曜日)
        通巻第5643号  <日曜版>
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 (本号はニュース解説がありません)
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<<読書特集>>
川口マーン惠美著『そしてドイツは理想を見失った』(角川新書) 
ジョシア・グリーン著 秋山勝訳『バノン 悪魔の取引』(草思社) 
樋泉克夫のコラム2本 ほか

    ○▽み□▽くや◇□ざし▽○き○□ま□▽さ□▽ひ○□ろ○○
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 書評(その1)しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW 
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 なぜドイツはナチ亜流の全体主義・中国にのめり込んだのか
  習近平の独裁、人権無視、人民監視という現実を語らなくなったメルケル

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川口マーン惠美『そしてドイツは理想を見失った』(角川新書)
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 題名から連想するならば、では「今日までのドイツに理想はあったのだろうか?」と思わずにはいられない。
しかしながら本書はドイツの現状、とりわけ状況対応型政治家のメルケルの言動を基軸に措えつつも、偽善者の多いEU諸国の混沌ぶり、無茶苦茶になった欧州全体の政治環境などをわかりやすい語彙で鋭角的に描き出している。
ブラッセルのEU委員会ビル、じつは評者(宮崎)は先月ブラッセルに滞在の折、タクシーを雇って、この「EU村」へ行って見た。国際色豊か、しかし庶民にとっては官僚臭いエリート臭がぷんぷんする街、タクシーの運転手などはきびしい意見を吐いた。

 シリアからの移民問題がEUを深刻に亀裂状態に陥落させたのは事実だろう。
 当初、メルケルが言った「何人でも難民を受け入れるのは人道主義」という基本姿勢はドイツのリベラルなメディアが言祝ぎ、労働力を確保できると財界が飛びつくように喜び、単純な「グローバリズム」に酔いしれたドイツ国民の多くが思慮を欠いて賛同した。
 ところが、ドイツの周りの国々は、シリアからの難民が押し寄せて、ドイツへの通り道になった。夥しき新種の蝗の大群が押し寄せ、婦女強姦など犯罪も増えた。そのため、急いで国境を封鎖し、ドイツの一人勝ちを疎ましく思ってきた感情が爆発してメルケルを批判し、ドイツの政策が間違っていると言い出した。
そればかりか、ポーランド、ハンガリー、チェコ、オーストリアで「反メルケル」色が濃厚な政治指導者が政権の座に着き、フランス、イタリアで保守派が急台頭し、オランドでもあと一歩、英国はEUに背を向けてしまった。
なんとも収拾のつかない大混乱に陥ったのである。

だからエマニエル・トッドは予言した。「ドイツが折々に欧州を自殺させる。EUは解体し、ユーロは崩壊するだろう」と。

 そしてドイツでは「メルケル政権安泰」としたメディアの予測は大はずれ。川口さんは言う。
「CDU(キリスト教民主同盟)は、歴史始まって以来、最大の敗北を喫した」(中略)「ドイツ政府とメディアが理想を追いかけ、現実を見失ったからだ」。

 左派メディアが「極右」と騒いで異端視してきた「ドイツのための選択肢」は誰も予測をも超えて大躍進を遂げた。おりしも米国でトランプに黙って投票した「隠れトランプ支持派」が実際の投票行動で、本心を晒したようにドイツには大量の「隠れ反メルケル」がいたことになる。

周章狼狽したメルケル政権は、言論の自由を踏みにじるSNS規制法を議会通過させ、時代に逆行する。

 さて、本書にはそれ以外にも「えっ」と叫びたくなるような記述がたくさん詰まっていて、たとえば「ドイツ観念論」というのは、「ドイツ理想主義」だという。
 ドイツ観念論は哲学者のヘーゲルを源流として、その弟子や後継者にはナチスに近い思想を抱いたハイデッカーなどを生んだが、ヘーゲルの思想から右へ行ったのがニーチェ、左がマルクスだと総括すると、あるいは説明しやすいかも知れない。
 そして「戦後」におけるドイツ人の観念論(トいうより理想主義)は、総括として「自分たちはヘーゲルの時代、いや、もっと以前から高邁な理想を追求してきたはずだったのに、独りヒトラーのせいで道を踏み外してしまった」とするご都合主義な考え方を抱くに到った。ご都合主義の典型だろう。

 ドイツ人のアンビバレンツな思考方法がここで出てくる。ナチスが悪く、ドイツ人はヒトラーに騙されただけ、という都合のよい歴史観である。
 本書のもう一つの特色は独自的な歴史を結んできた「独中関係」である。
 ドイツ在住三十年の川口さんならではの独断場である。
 なにしろ日清戦争では清に最新鋭の軍艦(「定遠」と「鎮遠」)を売り、蒋介石には軍事訓練を施すための軍事顧問団を秘かに派遣し、武器を供与しつつも、その一方で日独伊三国同盟を結んでいたのはドイツだった。
 日本から見れば恥知らずの鉄面皮。その便宜主義的、機会便乗主義的な政治性にはドイツ特有な思考体系がある。

 ドイツはプロイセン王国の頃から清に近付き、おりからの「ドイツの産業革命」で貿易も増えていた。
「ドイツは中国との交易をさらに拡大するため、徳華銀行(ドイツ・アジア銀行)という投資銀行をつくる。現在、中国がイニシアティブをとっているAIIBを彷彿とさせる」(74p)
 しかも清がドイツに好感を抱いた理由は「お茶や陶磁器、絹などを輸入し、それをアヘンの密輸出で精算しようとしたイギリスなどとは違い、ドイツの売り込んだものは、生産手段であり、軍事技術だった。つまり、中国の近代化に資するものを、ドイツは売った。ドイツと中国との絆が固くなったのは、当然の成り行きだった」
 どうやらドイツ人と中国人は似ている。
「狐と狸の壮大な化かし合い」が独中関係であり、「ときにドイツは中国を『経済国家主義』などと批判するが、(中略)中国マネーと中国市場の威力はつとに大きく、ドイツ人はあらがえない」(112p)のである。
 かくして「民主主義の優等生」は「自由から逃亡した」。
 読み応えがあると同時に多くを考えさせて呉れる本である。
       ◇◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇◇

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● 彼女の分析からも以下の事が読めるでしょう。

  ❶ 西欧の大崩壊と文明の大崩壊。

    EUの崩壊は既に私が予想していることです。それをエマヌエル氏はドイツの
    性にしているが、それは正確とは言えません。独伊等を除く大西洋先進
    先輩資本主義の寿命の到来による西欧文明の崩壊がその本質です。

    独の資本主義は日本同様、2140年前後まで続きますから、結果としてEUの
    ボスに収まったのであり、EUは独の経済圏にされたという事なのです。

    EUの解体と他の諸国のドイツ経済からの、自由の為の闘争はがやがて来る
    西欧の崩壊と内戦の主役となるでしょう。崩壊には内戦が伴なうは
    当然です。そして大西洋資本主義国での新しい独裁国家群の登場です。

    それに独がどう立ち向かうか、言い換えればどのように巻き込まれるかが、
    西欧の今後の状態を決めるのです。
   
  ❷ 21世紀の後半における、日本のライバルとしてのドイツ。

    上記の大混乱の中で、何でも売る卑しい商売人の顔が前面に出るのか、それとも
    自由と民主主義をまもる資本主義の遺産が前面に出るかで、独の性格が
    明らかとなるのです。

    言い換えれば、日本が英米の遺産・自由と民主主義国としてのリーダーシップを
    発揮すればするほど、独は卑しい商売人になる可能性が高いと云えます。
    日本が陽なら、独は陰という事なのです。陰陽は避けがたい法則です。

    理想的には、日独伊・スェーデン・印度が資本主義の自由と民主主義の
    守り神となり、内戦と混沌の世界を治めるのが、望ましいでしょうが、
    国も個人同様、欲望と嫉妬という感情から自由になるのは困難でしょう。

    
    

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