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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成29年(2017)11月10日(金曜日)
通巻第5503号
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二階にあがったら、梯子を外された「クルド独立」
イラク政府が経済制裁、キルクーク油田は奪回されてしまった
****************************************
クルド族自治区はイラク北方、トルコとイランにもクルド族は広く分散している。2017年9月25日の住民投票で、クルド独立は93%の賛成票を得た。
この地区の大半を統治するのはKRG(クルド地域政府)で、主体はKDP(クルド民主党)。議長のバルザニが12年間「大統領」を努め、石油権益も抑えてきた。
「首都」のエルビルは経済的に繁栄し、国際線もかなり乗り入れている。
もう一つのクルド族の組織は前大統領だったタラバニが率いたPUK(クルディスタン愛国同盟)である。
もともとKDPからの分派で、バルザニと対立してきたため、独立を急ぐことには熱心ではなく、寧ろイラク政府に協力してきた。サダムフセイン打倒のために戦い、その功績でタラバニは四代目のイラク大統領となっていたが、2017年10月にドイツの病院で死去した。暫定的にPUKの代表をアリが務めているが事実上はタラバニの息子が統治している。
さて、クルド独立という悲願。イラクのクルド族は二派に分裂したとはいえ、独立を目指す目標は同じ。諸外国の援助を悲壮に呼びかけてきた。局面が変わったのはISとの戦いである。米国はIS退治のためクルド族の武装組織「ペシャメルガ」に武器を援助し、またイラク政府軍には軍事訓練を施してきた。
クルド族の諸派も、米軍に協力した。米国は武器支援を継続し、ISが抑えた地域を奪回するためにペシャメルガが大いに貢献した。これらの過程で米国の支援を確信したクルド族は、長年暖めてきた「独立」を、まずは「住民投票」というかたちで意思表示し、さらに国際社会の支援を得ようとする戦略を行使した。
これが裏目に出たのだ。
二階に上がったら梯子を外されたかたちとなった。
第一にイラク政府軍がキルクーク一帯に軍事侵攻し、せっかく権益としてクルド族の油田(キルクークなど五つ)をあっけなく奪回されてしまった(10月21日)。
この軍事作戦に協力して、闘わないで撤退したのがPUK,つまりクルド族内部の主導権争いでバルザニ派から、石油利権を取り上げる結果となった。
KDP主体の「クルド族地域政府」は大いなる失望に陥り、イラク政府の経済政策ならびに法的手続きで「住民投票は無効」追い込まれ、独立は棚上げ状態となった。まるでスペインのカタルーニャ独立と類型の挫折パターンを味あわされてしまった。
▼大国の不条理
東チモールやコソボの独立では欧米が支援し、実力もないのに独立したのは、大国の強い支援、つまりパワーゲームが派生させたハプニングである。
ところがカタルーニャ独立も、クルド族独立も、大国の論理からいえば、迷惑千万であり、「民族自決」という大原則は無視され、沈黙を余儀なくされるのである。
ところが、ところが。
第二幕は、もっと凄まじい裏切り劇だった。
キルクークをあっさり明け渡したタラバニ一派は、この石油利権でバルザニの主導権を奪えるとほくそえんだのも束の間、「イラク政府軍」を名乗って進駐してきたのはイランの革命防衛隊だった。
イランが事実上、イラク政府の背後で権力を握っているのではないかとする推測は、このことからも証明されるかたちとなった。
そのうえ、イラクの分裂状態が続けば、クルド独立は店ざらしとなり、その状況の継続を望むのがじつは国際石油資本などだ。
複雑怪奇な中東状況はますますややこしい。エクソンモービルもBPも、これらキルキーク油田にビジネスが絡んでおり、かのティラーソン(当時エクソンの会長)も、此の地を訪問して鉱区を確保している(その後、売却)。
□◇□み△□◇や□▽◎ざ□◇□き◎□◇
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● 今回は、カタルーニャ同様、第一波と云えます。元の木阿弥のように見えるが、
住民の意思の確認と国際社会への宣伝は出来たのです。後は時期が来るのを
力を蓄えながら待ち、一気に第三波へと持っていくのです。
● 今は第二波の調整の時期・つまり臥薪嘗胆の時期です。内戦型世界大戦になれば
世界中に内戦が広がり、USA/大西洋資本主義国の衰退は顕著となり、必然的に
好機が訪れます。もはや西欧諸国は支配者面は出来なくなるのです。
● この時が攻勢の時でしょう。中東の時代は知恵者賢帝の独裁の時代ですから、
民主等と名前が入っている勢力は、西欧の崩壊とともに消え去るでしょう。
● 代わりに、知恵者賢帝の独裁を思わせる、PUK・クルディスタン愛国同盟が
最終的にクルドの権力を握ると予想できます。何故なら二〇四六年の
USA/大西洋資本主義が大崩壊すれば、民主主義はすたれ、
中東は・・・スタン国家となると予想できるからです。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成29年(2017)11月10日(金曜日)
通巻第5503号
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二階にあがったら、梯子を外された「クルド独立」
イラク政府が経済制裁、キルクーク油田は奪回されてしまった
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クルド族自治区はイラク北方、トルコとイランにもクルド族は広く分散している。2017年9月25日の住民投票で、クルド独立は93%の賛成票を得た。
この地区の大半を統治するのはKRG(クルド地域政府)で、主体はKDP(クルド民主党)。議長のバルザニが12年間「大統領」を努め、石油権益も抑えてきた。
「首都」のエルビルは経済的に繁栄し、国際線もかなり乗り入れている。
もう一つのクルド族の組織は前大統領だったタラバニが率いたPUK(クルディスタン愛国同盟)である。
もともとKDPからの分派で、バルザニと対立してきたため、独立を急ぐことには熱心ではなく、寧ろイラク政府に協力してきた。サダムフセイン打倒のために戦い、その功績でタラバニは四代目のイラク大統領となっていたが、2017年10月にドイツの病院で死去した。暫定的にPUKの代表をアリが務めているが事実上はタラバニの息子が統治している。
さて、クルド独立という悲願。イラクのクルド族は二派に分裂したとはいえ、独立を目指す目標は同じ。諸外国の援助を悲壮に呼びかけてきた。局面が変わったのはISとの戦いである。米国はIS退治のためクルド族の武装組織「ペシャメルガ」に武器を援助し、またイラク政府軍には軍事訓練を施してきた。
クルド族の諸派も、米軍に協力した。米国は武器支援を継続し、ISが抑えた地域を奪回するためにペシャメルガが大いに貢献した。これらの過程で米国の支援を確信したクルド族は、長年暖めてきた「独立」を、まずは「住民投票」というかたちで意思表示し、さらに国際社会の支援を得ようとする戦略を行使した。
これが裏目に出たのだ。
二階に上がったら梯子を外されたかたちとなった。
第一にイラク政府軍がキルクーク一帯に軍事侵攻し、せっかく権益としてクルド族の油田(キルクークなど五つ)をあっけなく奪回されてしまった(10月21日)。
この軍事作戦に協力して、闘わないで撤退したのがPUK,つまりクルド族内部の主導権争いでバルザニ派から、石油利権を取り上げる結果となった。
KDP主体の「クルド族地域政府」は大いなる失望に陥り、イラク政府の経済政策ならびに法的手続きで「住民投票は無効」追い込まれ、独立は棚上げ状態となった。まるでスペインのカタルーニャ独立と類型の挫折パターンを味あわされてしまった。
▼大国の不条理
東チモールやコソボの独立では欧米が支援し、実力もないのに独立したのは、大国の強い支援、つまりパワーゲームが派生させたハプニングである。
ところがカタルーニャ独立も、クルド族独立も、大国の論理からいえば、迷惑千万であり、「民族自決」という大原則は無視され、沈黙を余儀なくされるのである。
ところが、ところが。
第二幕は、もっと凄まじい裏切り劇だった。
キルクークをあっさり明け渡したタラバニ一派は、この石油利権でバルザニの主導権を奪えるとほくそえんだのも束の間、「イラク政府軍」を名乗って進駐してきたのはイランの革命防衛隊だった。
イランが事実上、イラク政府の背後で権力を握っているのではないかとする推測は、このことからも証明されるかたちとなった。
そのうえ、イラクの分裂状態が続けば、クルド独立は店ざらしとなり、その状況の継続を望むのがじつは国際石油資本などだ。
複雑怪奇な中東状況はますますややこしい。エクソンモービルもBPも、これらキルキーク油田にビジネスが絡んでおり、かのティラーソン(当時エクソンの会長)も、此の地を訪問して鉱区を確保している(その後、売却)。
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● 今回は、カタルーニャ同様、第一波と云えます。元の木阿弥のように見えるが、
住民の意思の確認と国際社会への宣伝は出来たのです。後は時期が来るのを
力を蓄えながら待ち、一気に第三波へと持っていくのです。
● 今は第二波の調整の時期・つまり臥薪嘗胆の時期です。内戦型世界大戦になれば
世界中に内戦が広がり、USA/大西洋資本主義国の衰退は顕著となり、必然的に
好機が訪れます。もはや西欧諸国は支配者面は出来なくなるのです。
● この時が攻勢の時でしょう。中東の時代は知恵者賢帝の独裁の時代ですから、
民主等と名前が入っている勢力は、西欧の崩壊とともに消え去るでしょう。
● 代わりに、知恵者賢帝の独裁を思わせる、PUK・クルディスタン愛国同盟が
最終的にクルドの権力を握ると予想できます。何故なら二〇四六年の
USA/大西洋資本主義が大崩壊すれば、民主主義はすたれ、
中東は・・・スタン国家となると予想できるからです。