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日米豪とASEAN、CO2の地下貯留で連携 実質ゼロへ【イブニングスクープ】
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CO2の地下貯留実験に取り組んだ北海道苫小牧市の施設
日米豪と東南アジア諸国連合(ASEAN)各国が、温暖化ガス削減に向けた新たな手法で連携する。二酸化炭素(CO2)を地下に埋め大気中への排出を減らす事業で協力する。アジアで排出されたCO2を現地で貯留した分は、日本での排出分と相殺できる。日本は温暖化ガス排出「実質ゼロ」を実現する有力手段になるとみて推進する。
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欧州などで温暖化ガス排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目標にする動きが広がっている。日本も菅義偉首相が10月、2050年の実現を表明した。
実質ゼロの実現にはCO2の排出量を森林が吸収する量などと同等に抑える必要がある。再生可能エネルギーの拡大や水素の活用を進めても、鉄鋼や化学など産業によっては排出が続き完全に均衡させるのは難しい。
「実質ゼロ」の取り組みの広がりに伴い、CO2を地下に埋める技術に注目が高まっている。CCUS(CO2の回収・利用・貯留)と呼ばれる技術で、例えば火力発電所から出てきたCO2を圧縮したり液体に吸収させたりして、井戸を通して地下に封入する。油田やガス田などの地層を利用しCO2が外に漏れ出さないようにする。
北米ではすでに一部で実用化されており、欧州では各国から集めたCO2を北海に埋める実証実験が始まっている。
日本のエネルギー政策は再生エネの拡大を進める一方、一定割合で火力発電も使い続ける方針だ。アジアでも火力発電などに頼る国が多い。現地で排出されたCO2の地下貯留に協力すれば、その分を自国で排出した量と相殺できる排出権取引の国際ルールがあり、実質的に日本のCO2排出量を削減できる。
月内に開く東アジア首脳会議(EAS)のエネルギー相会合で新たな枠組みの方向性を確認する。21年からまずアジアでCO2を貯留できる候補地の一覧をつくる。油田やガス田が多いアジアは地下貯留の候補地も多いとされる。
経済産業省によると少なくとも現在の日本の年間排出量の10年分にあたる100億トン以上のCO2を貯留でき、油田やガス田などの利用を増やせばさらに広がる可能性がある。国際エネルギー機関(IEA)は2070年に世界のCO2排出削減量の15%をCCUSが占めると予測する。
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貯留量やコスト、環境への影響などを調査し、各国と民間企業で2030年から商業利用の開始をめざす。日本は国際石油開発帝石が地質的に安定しているオーストラリアなどで検討を始めている。米国はアジアで実用化した技術を米国で応用することも見込む。
国境を越えて地域全体でCO2貯留量を取引することも検討する。CO2を船やパイプラインで貯留場所まで運搬したり、技術協力した分を自国の排出分と相殺したりする仕組みを想定する。
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日本企業も技術開発を進めている。北海道苫小牧沖では約30社が連携し地下貯留の実証実験を実施中だ。日揮が地上設備の設計や運転技術を担い、石油資源開発(JAPEX)は井戸の掘削などを担当した。
東芝子会社は10月末から福岡県の火力発電所で排ガスを特殊な溶液に通しCO2を分離・回収する実証を始めた。川崎重工業は関西電力の舞鶴発電所(京都府)でCO2回収設備を設置する。三菱重工業は米国でCO2回収設備を納入した実績があり、東レはCO2を効率的に回収する高機能膜の開発を進める。
実用化では回収や貯留の効率を高める技術開発に加え、コスト低減が課題になる。現行の技術では1トンあたり約7千円かかるとみられる。国内は大規模な地下貯留の候補地が少なくアジアで事業を拡大してコストを下げられるかがカギになる。
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