HPV関連の肛門がん罹患率が急増
米研究
国際医学短信2019年12月9日 (月)配信 一般内科疾患消化器疾患産婦人科疾患癌米国では過去15年間に、性行為により感染するヒトパピローマウイルス(HPV)が発症に関与する肛門がんの罹患率が劇的に上昇したことが、米テキサス大学公衆衛生大学院のAshish Deshmukh氏らによる研究から明らかになった。研究の詳細は「Journal of the National Cancer Institute」11月19日オンライン版に掲載された。
Deshmukh氏らは今回、全米がん登録データを用いて、HPVが発症に関与する肛門がんの一種である肛門部扁平上皮がんについて、2001~2016年に診断された6万8,809例と死亡した1万2,111例に関するデータを収集。肛門がんの診断率(2001~2015年)と死亡率(2001~2016年)の推移を調べた。
その結果、肛門がんの罹患率は年間2.7%、死亡率は年間3.1%それぞれ上昇したことが分かった。肛門がんの罹患率と死亡率の上昇は、特に50歳以上で顕著にみられ、50~60歳代では2倍以上であった。さらに、1980年代半ば以降に生まれた黒人男性における肛門がんの新規診断例は、1940年代半ばに生まれた黒人男性の5倍に達していた。
このほか、進行した肛門がんの診断例も年間7%増加していた。この点について、Deshmukh氏は「がん転移後には、生存率は極めて低くなるため問題だ」と指摘。その上で、「早期に発見できれば、肛門がんの5年生存率は70%近い」と説明している。
肛門がんの90%は、その発症にHPVが関与しているとされる。HPV感染はワクチン接種で予防できるが、接種対象となる米国人の半数は予防接種を受けていないのが現状だ。そのため、今後も新たな感染者が増え、肛門がんの罹患率も上昇し続ける可能性があるとして、Deshmukh氏は「HPVワクチン接種は性感染症の予防ではなく、がん予防が主目的であることを強調するべきだ」と主張している。
なお、米疾病対策センター(CDC)は、HPVワクチンは15歳未満で開始した場合は計2回、16~26歳で開始した場合は計3回接種するよう推奨している。
2009年に亡くなった女優のファラ・フォーセットの死因は肛門がんだったが、世間ではあまり注目されなかった。しかし、テレビシリーズの『デスパレートな妻たち』で知られる女優のマーシア・クロスも肛門がんと診断されている。クロスの夫はまた、HPVが関連した咽頭がんに罹患していたという。
この研究には関与していない、米レノックス・ヒル病院で炎症性腸疾患プログラムのディレクターを務めるArun Swaminath氏は、「肛門がんが増えているのは明らかだ」と述べ、「肛門がんリスクは、同性愛や両性愛の男性だけでなく、喫煙者や肥満者、HPVに感染した女性でも高い」と付け加えている。
一方、Deshmukh氏は、肛門がんリスクが高い人、特に同性愛や両性愛の男性は定期的にスクリーニングを受けるべきだと助言している。
HealthDay News 2019年11月20日