「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
令和元年(2019)10月14日(月曜日。祝日)
通算第6233号
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香港大乱の標語「時代革命」「光復香港」は体制革新が目的
ジニ係数「0・539」が意味するもの
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中国の「ジニ係数」は0・62(公式発表は低いが、人民大学教授の推定値)
香港のそれは0・539
ちなみに米国は0・39(日本は0・37=厚生省)。
(註 中国国家統計局発表のジニ係数は0・48だが、中国人民銀行と西海財経大学との共同調査では0・61とはじき出されている)。簡単に言えば国富の61%が僅かの特権階級が独占しているという不平等経済の実態を数値化したものだ。
IMFの定義するところでは、ジニ係数が0・4を超えると超格差社会ゆえに下層階級が不満を爆発させて暴動が起きる。0・5を超えると叛乱、革命になる。過去に0・5を超えた南ア、ベネズエラ、ボツアナ、コロンビア、ハイチ、中央アフリカなどでは政権交代があった。
中国はカメラとネット監視と圧政で民衆の叛乱を抑え込んでいるが、香港は警察だけであり、監視態勢はない。だから暴動型の抵抗運動は駐屯する人民解放軍の武力介入、戦力行使による武力鎮圧がない限り継続する。所得格差への怨念が若者達を突き動かすのだ。
米国は所得格差が大きいが、金持ちは寄付行為を行って、富の分配にも寄与するので暴動が起きるのは人種差別や不当な扱いを受けたスラムで惹起されやすい。
しかし米国が0・39のレベルでも、ウォール街に座り込んだ人々は、格差解消、富の公平な分配を叫んだ。
「われわれが99%」という運動は、またたくまに世界に拡大し、豪、英仏独、台湾、伊、そして日本でも「東京を占拠せよ」というデモが500人で六本木、日比谷などでデモが行われた。
2011年9月にひとりの人間がウォール街に座り込むと、ツィッター、SNSでどっと若者を中心に失業者、労働者らが集合し、「われわれが99%」運動はメディアで大きく報道された。ジョージ・ソロスやら、ノーベル経済学賞のクルーグマンらが礼賛し、規模が膨らむと、デモ行進が過激化し、弐ヶ月ほど続いた。
前年から「アラブの春」運動が始まって、チュニジア、リビアへとその輪が拡がっていた。この当時のアメリカのジニ係数は0・34台だった。若者らは大卒でも就職難の窮状を訴えていた。
フランスのジニ係数は0・291(ちなみにドイツは0・294)
フランスの黄色ベスト着用の反政府運動は2018年11月から本格化した。フランスでは自家用車に黄色の蛍光色の強いベスト装備が義務つけられており、ツィッター、SNSで、このベストを着用しての抗議集会とデモが呼びかけられ、お互いに隣の参加者を知らない者たちが手をつなぎあい、バリケードを築き、連帯した。
黄色ベストの主張は当初はガソリン値上げ反対だった。次第に生活苦を訴え、物価是正、緊縮財政政策の中止、そしてマクロン大統領の退陣へとエスカレートする。
各地で警官隊と衝突し、催涙弾防御のためのマスクがシンボルとなった。
▲フランスの黄色ベスト運動もウォール街を占拠せよも、共通点がある。
留意点はツィッター、SNS、そしてマスク(覆面)が香港と共通であること。
しかしもっとも注目するべきが「緊縮財政の中止」をフランスのデモ隊が言っていることである。
EUの金融政策では参加国はGDPの制限枠内での財政出動しか出来ず、効果的な失業対策に打って出られないという制度的な矛盾を抱える。
EUの中央銀行、すなわちECBが金利調整を行なうので、フランス一国で独自な金融財政政策をとれない。だから「EUから脱退」を言うルペンの政治主張がひろく受け入れられるのである。
米国の左翼運動は、裏付けのない無謀な主張で「際限のない財政出動」を叫び、福祉・医療の拡大、大学授業の免除を訴えるリズ・ウォーレンが民主党の予備レースで、バイデン元副大統領の支持率をぬいてトップに躍り出た。
バイデンは中国との金銭まみれのスキャンダルが出来し、突然、人気が急落した。息子のハンターは中国の企業躍進を辞任すると発表した(12日)。
社会主義者バニー・サンダーズの入院により、ぽっこりと空いた空隙にウォーレンが滑り込んだのだ。いま、こうして民主党の極左に支持があつまるのは、所得格差に原因がある。
大統領レースの競合者が誰であれ、米国の境遇は世界の現象に似てきたのだ。緊縮財政の中止、MMT理論が衆目の期待を集めるのも、理論は保守系なのに極左が都合良く利用している。
先進国で、もっとも悲惨な経済の落ち込みを経験中の日本が、いまだに財務省主導の緊縮財政政策にこり固まっているにもかかわらず、なぜ米国や仏蘭西や香港で起きている運動が起こらないのか? それはツィッター後進国の所為ばかりではないだろう。しかし、前回選挙での山本太郎現象は、次の展開への前兆と受け止められる。
▲香港の黒覆面の武装集団を税制支援するのは誰か?
香港の抗議行動も初段階は平和的な行進だった。七月を境にして暴力化した。
突如、デモ隊に紛れ込み、大量の火焔瓶を次々と警察や政府庁舎、地下鉄駅に投げ、警官と衝突の切っ掛けをつくるが、さっと逃げる。駅に放火し、火焔瓶を用意し、暴動を煽りながらも、忽然と去る覆面武装の小グループは最大でも百名強くらいだろう。
かれらは「時代革命」という平和的な、穏健派のデモ行進とは無縁で、「破壊せよ、ともに破壊するのだ」と叫びあって暴力的破壊行為に専念している。
その戦術と統率の取れた遣り方はよくよく訓練されたもので、テロリズム専門家は「1999年に米国西海岸シアトルで開催されたWTO大会を、完全にぶち壊した世界的な無政府主義集団の破壊活動に似ている」として無政府主義集団の国際的連携が背後にあるのではないかと邪推する。
WTO反対を唱えた無政府主義団体は、アンチ・グローバリズムを掲げたが、愛国主義とも無縁でナショナリストの集団とはほど遠い政治的主張を繰り返した。
香港では、衝突のたびに警官に捕まるのは逃げ遅れた、デモ初参加の稚拙な人々であり、三分の一が18歳以下だった。かれらは今後、長い裁判と、その裁判費用の捻出という大事業が待っている。
支援体制が先細りになるか、あるいはまだまだ抗議活動は続行されるのか、いずれ息切れし、自然消滅に至るかは現時点で予測するのは難しい。
問題は、武装集団の軍資金である。
平和デモと集会の最大の胴元はジミー・ライこと、黎智英(リンゴ日報社長)である。行進では自らが先頭に立ち、また主宰するリンゴ日報は、あたかも抗議団体の機関誌のように民主化デモを支持している。しかし暴力行為を諫めており、このまま無政府状態が続けば中国軍の介入を招くだろうと警告もしている(げんに習近平は10月13日、訪問先のネパールで演説し「いかなる分裂行為も許さず、粉砕する」と恐喝的言辞を吐いた)。
ジミーは九月に訪米し、ポンペオ国務長官、ペンス副大統領、ジョン・ボルトン補佐官(当時)とも面会した。ジミーの米国に於ける最大の理解者はポール・ウォルフォウィッツ元国防副長官、元世界銀行総裁である。
しかもポールはポーランド系ユダヤ人の両親のもと、イスラエルに暮らしたこともあり、インドネシア大使も歴任した國際派だが、依怙贔屓人事を批判され辞任した。
この関連からネオコンの頭目の一人と見られ、ジミーとの親密な関係の背後関係を示唆する人もいる。
▲英語圏で黒幕説の「マイルズ・クオ」って、郭文貴のことだ
もう一人、運動の「黒幕」と言われるのがマイルズ・クオこと郭文貴である。
いうまでもなくトランプ政権で戦略補佐官だったスティブ・バノンンとの親交で知られるが、アメリカに亡命後、NYに豪邸を構え、ユーチューブを開局し、ひたすら王岐山、習近平のスキャンダルを暴き続けている。
この郭文貴が武装集団の黒幕の一人ではないかと推測も香港ではあがっている。
理由は反習近平の共産党内の権力闘争が絡み、習の失敗を待っているのが江沢民派、それに繋がる軍人の人脈であり、ひそかに江沢民派と共闘しているのが共産主義青年団という図式だからだ。
香港利権は江沢民派の縄張りだった。
嘗て郭文貴は江沢民派の蓄財のために、インサイダー取引やマネーロンダリングに手を染めたのも、権力中枢の公安幹部と繋がっていたからで、株式市場で怪しげな取引の裏には郭文貴の名前と、その手下で明天証券の粛建華が張本人といわれたものだった。
かれらの悪行も依然として中国で尾を引いており、内蒙古省の「包商銀行」の倒産、国家管理に至ったのも、かれらのATMだったからだ。この文が香港暴動の背後で暗躍しているに違いないと、これも推測の域を出ないストーリーである
10月13日、香港でまたまた反政府抗議活動が展開され、例によって政府庁舎、警察、地下鉄駅に火焔瓶が投擲された。美心集団のスタバ、優品360などが方々で襲撃されたが、中国銀行のATMがほぼ壊滅されたうえ、この日、ファーウェイとレノボの販売店も襲撃された。ファーウェイ襲撃は、おそらく初めてである。
□△○み△□△○や△△○ざ◎△□○き□△□
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習近平と暴動との我慢比べ。内乱はどうなるのか?
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