「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
令和元年(2019)7月16日(火曜日)弐
通巻第6142号
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マレーシア「パイプライン」プロジェクト、40億ドルが消えていた
ナジブ前政権、ケイマン諸島へ送金。前代未聞の資金洗浄疑惑
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前々から怪しいプロジェクトだった。
ボルネオのサバ州から662キロの海底パイプラインを敷設して、マレー半島の東海岸までガス輸送を行い、その工事は中国石油の子会社「中石パイプライン・エンジニアリング」が行う。
中国はこれを「シルクロード」プロジェクトの一環と宣伝していた。新幹線工事と併せて合計23億ドルという途方もない資金が、無駄なプロジェクトに投下されようとしていた。
「トランス・サバ」と名づけられたパイプラインの工事はナジブ政権時代の親中路線による積極姿勢で、「2016年に開始され、2018年九月の正式のキャンセル決定までに13%の工事が完了していた」(ストレートタイムズ、2019年7月15日)。
しかも、マレーシアは80%の資金を「前払い」していた。総額30億ドルもの大工事を延べ払いではなく、一括して80%も支払ったという「気前よさ」!
じつはHSBC(香港上海銀行)のマレーシア支店口座から、このカネはケイマン島へ送金されていた。
明らかな資金洗浄である。
ナジブ政権は、このプロジェクトを含む資金調達のため、総額60億ドルの財団(1MDB)を設立して投資資金をつのり、カタール、ドバイなど産油国のファンドが応じていた。IMDB疑惑は当時からマレーシアで騒がれていたが、マハティールの逆転勝利の選挙までナジブ前首相の逮捕は行われなかった。
スキャンダルの浮上にともない、ドバイ、カタールなどの投資グループは、資金返還を求めて米国の裁判所に提訴した。なぜなら、前述60億ドルの起債幹事はゴールドマンサックスであり、同社は、起債手数料として6億8000万ドルという法外な手数料を手にしていたからだ。
また「1MDB」の口座からは60億ドルのうちの45億ドルが蒸発していた。これは国家財政を食い物にしていたことになる。
7月15日、マハティール首相は記者会見し、総額23億ドルの工事費の80%、およそ20億ドルが支払われたのに、工事は13%しか完成していない。残り部分に相当する金額は返還して貰う必要がある。とりあえず、口座残金の2億4340万ドルを差し押さえた」と発表した。