「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
令和元年(2019)6月13日(木曜日)弐
通巻第6109号
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(休刊予告)小誌は海外取材のため6月15日—23日が休刊となります
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貿易戦争は関税合戦、トランプの本心は早く幕引きしたい。
中国はメンツにこだわり、米国は農家もメーカーも苦杯が続く
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そろそろ幕引きとトランプ大統領は内心で考えているのではないか。
だから「大阪のG20で、習近平が首脳会談に応じなければ第四次制裁関税をすぐに発表するだろう」とさかんにツィートしている。
畏怖と威嚇で相手から譲歩を引き出すディール。トランプ大統領一流の駆け引きである。
そう言えば、トランプが若き日に世に問うたベストセラーは『駆け引きの芸術』(THE ART OF DEALS)」という題名だ。いまも筆者の手元にある。
米国からの対中輸出は29・6%減少、中国はところが8・4%減らしただけ、駆け込み輸出が主因だが、生産、流通、そして消費が、米国市場とて中国にしっかりとビルト・インされているからだ。
なにしろトランプの標語「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」の帽子もシャツも国旗も中国でつくっている。
日本とてアパレルに関しては91%を輸入に頼っており、国内アパレルは壊滅同然となっている。
中国は消費者物価が2・7%値上がりし、とくに豚肉は18・2%,生鮮果物は26・7%、たとえばニンニクの中国における小売価格は45〜-50ドルから55〜-60ドルに値上げになった。
漁夫の利を得ているのは欧州とベトナムである。とくにベトナムは中国企業が夥しく移管して「ベトナム製」として対米輸出しているため輸出が急伸中だ。
かくして世界貿易構造に地殻変動にたぐいする大変化が起きている。米国は、この変化を十分に認識しながらも、失業率が低く、国内世論はトランプの対中強行策を支援しているので、現在の政策続行はやむを得ないと判断している。
ところがトランプ支持基盤であるオハイオ、アイダホ、インディアナ、アラバマなどの農業州で、悪影響が著しく出始めた。
大豆輸出は四分の一にまで減少、そのうえ異常気象による洪水が重なり、これはトランプへの批判票となって、共和党の固い地盤である農業州で、あろうことかバイデン支持が見られるようになった。
現段階では、議会が中国制裁の法律を作ってトランプにはやく実行せよと迫り、メディアも議会に輪をかけて中国に強硬であるがゆえに、貿易戦争の強硬姿勢は、アメリカの総意である。
しかし大統領選挙が近付けば、選挙対策がどうしても視野に入る。
そのうえ、トランプ政権の内部はケリー去り、バノン去り、マティス去りで、バラバラの様相、通商政策は強硬派のナバロとライトハイザーが主導し、ロス商務長官ら穏健派は声をあげず、安全保障政策はボルトンの一人舞台。だいいち安全保障会議が開催されていない気配が濃厚である。
▲中国に進出した米企業も大苦戦
他方、中国へ進出して大規模な投資を続けてきたアップル、デル、そしてGMなどは中国国内で急激な売り上げ不振に見舞われ、大量のレイオフをだしている。中国市場で立場がかなり悪化、不利になってきた。
従って貿易戦争における高関税合戦は、米国も中国もはやめに手を打ちたいのである。G20大阪で、米中首脳会談を急ぐのはトランプのほうにその動機が強い。しかし選挙の心配のない習近平にとってはメンツを保持することがもっとも重要で、『譲歩』の印象だけは避けたいというところであろう。
貿易戦争なんぞより、米国が重視するのは次世代ハイテクの覇権であり、こちらの方面ではファーウェイ、ZTE、チャイナモバイルに引き続き顔面識別のカメラメーカーに社、ドローンのメーカーなどの米国上陸を阻止した。
米中は現在の貿易戦争のレベルから、早晩、金融、技術をめぐる総合戦に移行する。
トランプ政権は、こちらを優先させるために、やはり貿易戦争で徒な譲歩を拒み、中国経済の衰退を時間をかけて攻めながら、技術の流失を防ぎ、中国経済のパワーを弱め、これまでのパワーを集中させて、新しい政策発動へ向かう方向にある。
▼ABCD包囲網、ハルノートあたりまで戦前と酷似してきたが。。。
とはいうものの、熱い戦争に至る可能性はきわめて低い。
戦前のFDRは、対日戦争を準備するために、移民法改悪、対日悪宣伝キャンペーン開始、ABCD包囲ライン、日系人強制収容、ハルノートと徐々に日本をして戦争を仕掛けるように謀り事をめぐらせて、パールハーバーを待った。直前には中国奥地にフライングタイガー基地を志願兵と偽って準備し、日支事変では事実上の対日参戦をしていた。
いま、米中戦争が、このパターン通りに繰り返すことはないが、一つの歴史教訓として見直せば、中国人移民規制、中国の悪宣伝キャンペーンは開始され、技術移転封鎖、関税戦争は一種のABCD包囲ライン、ペンス副大統領演説はハルノートと言えなくはない。
中国は戦争も辞さない。最後までおつきあいすると威勢の良いタンカを斬ってはいるが、兵站準備はまるで出来ていない。
口では台湾に強硬姿勢を示すものの事実上の戦争準備態勢にはない。むしろ台湾企業が中国から撤退して行くのを拱手傍観している。
ならば次は何が起こるか?
令和元年(2019)6月13日(木曜日)弐
通巻第6109号
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(休刊予告)小誌は海外取材のため6月15日—23日が休刊となります
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貿易戦争は関税合戦、トランプの本心は早く幕引きしたい。
中国はメンツにこだわり、米国は農家もメーカーも苦杯が続く
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そろそろ幕引きとトランプ大統領は内心で考えているのではないか。
だから「大阪のG20で、習近平が首脳会談に応じなければ第四次制裁関税をすぐに発表するだろう」とさかんにツィートしている。
畏怖と威嚇で相手から譲歩を引き出すディール。トランプ大統領一流の駆け引きである。
そう言えば、トランプが若き日に世に問うたベストセラーは『駆け引きの芸術』(THE ART OF DEALS)」という題名だ。いまも筆者の手元にある。
米国からの対中輸出は29・6%減少、中国はところが8・4%減らしただけ、駆け込み輸出が主因だが、生産、流通、そして消費が、米国市場とて中国にしっかりとビルト・インされているからだ。
なにしろトランプの標語「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」の帽子もシャツも国旗も中国でつくっている。
日本とてアパレルに関しては91%を輸入に頼っており、国内アパレルは壊滅同然となっている。
中国は消費者物価が2・7%値上がりし、とくに豚肉は18・2%,生鮮果物は26・7%、たとえばニンニクの中国における小売価格は45〜-50ドルから55〜-60ドルに値上げになった。
漁夫の利を得ているのは欧州とベトナムである。とくにベトナムは中国企業が夥しく移管して「ベトナム製」として対米輸出しているため輸出が急伸中だ。
かくして世界貿易構造に地殻変動にたぐいする大変化が起きている。米国は、この変化を十分に認識しながらも、失業率が低く、国内世論はトランプの対中強行策を支援しているので、現在の政策続行はやむを得ないと判断している。
ところがトランプ支持基盤であるオハイオ、アイダホ、インディアナ、アラバマなどの農業州で、悪影響が著しく出始めた。
大豆輸出は四分の一にまで減少、そのうえ異常気象による洪水が重なり、これはトランプへの批判票となって、共和党の固い地盤である農業州で、あろうことかバイデン支持が見られるようになった。
現段階では、議会が中国制裁の法律を作ってトランプにはやく実行せよと迫り、メディアも議会に輪をかけて中国に強硬であるがゆえに、貿易戦争の強硬姿勢は、アメリカの総意である。
しかし大統領選挙が近付けば、選挙対策がどうしても視野に入る。
そのうえ、トランプ政権の内部はケリー去り、バノン去り、マティス去りで、バラバラの様相、通商政策は強硬派のナバロとライトハイザーが主導し、ロス商務長官ら穏健派は声をあげず、安全保障政策はボルトンの一人舞台。だいいち安全保障会議が開催されていない気配が濃厚である。
▲中国に進出した米企業も大苦戦
他方、中国へ進出して大規模な投資を続けてきたアップル、デル、そしてGMなどは中国国内で急激な売り上げ不振に見舞われ、大量のレイオフをだしている。中国市場で立場がかなり悪化、不利になってきた。
従って貿易戦争における高関税合戦は、米国も中国もはやめに手を打ちたいのである。G20大阪で、米中首脳会談を急ぐのはトランプのほうにその動機が強い。しかし選挙の心配のない習近平にとってはメンツを保持することがもっとも重要で、『譲歩』の印象だけは避けたいというところであろう。
貿易戦争なんぞより、米国が重視するのは次世代ハイテクの覇権であり、こちらの方面ではファーウェイ、ZTE、チャイナモバイルに引き続き顔面識別のカメラメーカーに社、ドローンのメーカーなどの米国上陸を阻止した。
米中は現在の貿易戦争のレベルから、早晩、金融、技術をめぐる総合戦に移行する。
トランプ政権は、こちらを優先させるために、やはり貿易戦争で徒な譲歩を拒み、中国経済の衰退を時間をかけて攻めながら、技術の流失を防ぎ、中国経済のパワーを弱め、これまでのパワーを集中させて、新しい政策発動へ向かう方向にある。
▼ABCD包囲網、ハルノートあたりまで戦前と酷似してきたが。。。
とはいうものの、熱い戦争に至る可能性はきわめて低い。
戦前のFDRは、対日戦争を準備するために、移民法改悪、対日悪宣伝キャンペーン開始、ABCD包囲ライン、日系人強制収容、ハルノートと徐々に日本をして戦争を仕掛けるように謀り事をめぐらせて、パールハーバーを待った。直前には中国奥地にフライングタイガー基地を志願兵と偽って準備し、日支事変では事実上の対日参戦をしていた。
いま、米中戦争が、このパターン通りに繰り返すことはないが、一つの歴史教訓として見直せば、中国人移民規制、中国の悪宣伝キャンペーンは開始され、技術移転封鎖、関税戦争は一種のABCD包囲ライン、ペンス副大統領演説はハルノートと言えなくはない。
中国は戦争も辞さない。最後までおつきあいすると威勢の良いタンカを斬ってはいるが、兵站準備はまるで出来ていない。
口では台湾に強硬姿勢を示すものの事実上の戦争準備態勢にはない。むしろ台湾企業が中国から撤退して行くのを拱手傍観している。
ならば次は何が起こるか?